みんなもう忘れたと思うので、2023年4月期の新作アニメ1話ほぼ全部観た感想書くよ

はじめに

 父の新盆にかこつけてお盆休みを取得することに成功したため、久しぶりにアニメ三昧の日々を送っている。アニメのリアタイをしなくなって久しいので、そろそろあの毎日お祭りみたいに盛り上がっていた感覚が恋しい。ちなみに夏アニメはどうですか?面白いですか?
 また、一人でも多く沼に沈めることができればと思いそれぞれ1-3話程度の視聴後感をまとめているので、まだ観ていない人が改めて興味を持つきっかけになれば幸いだ。
 ちなみに2クール以上の長期シリーズや続き物は「1期1話を観てね」くらいしか書くことができないので基本的に端折っている。

配信情報まとめ

 私はTVでアニメを観ない(BS見れないし、TOKYOMXもAT-Xも受信できない)ので、配信情報はこれ以外の手段について書いている。
 なお、独占配信系タイトルは現時点でのものであり、後に他の配信サイトでも配信が開始される場合がある。あくまで現時点での参考になれば。

独占タイトル一覧

※《》内は月額プランの料金(税込み)

アマプラ独占配信《600円/月》

ゴールデンカムイ 第四期
僕の心のヤバイやつ
王様ランキング 勇気の宝箱(独占見放題)
地獄楽(アマプラ、ネトフリ、ひかりTV独占配信)
魔法使いの嫁 SEASON2(アマプラ、ひかりTV、Lemino独占配信)

ネトフリ独占配信《990円/月※上位プランあり》

ULTRAMAN FINALシーズン

FOD独占配信《976円/月》

特になし

Disney+独占配信《990円/月》

天国大魔境

WOWOW独占配信《2,530円/月》

特になし

DMM TV独占配信《550円/月》

特になし

Lemino独占配信《990円/月》

特になし

その他

Youtube独占配信)
ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP
夜は猫といっしょ

(Abema独占見放題)
異世界はスマートフォンとともに。2

感想

僕の心のヤバイやつ

アマプラ独占配信

 『金閣寺』主人公救済ルート。タイトルの正規表現が永遠に覚えられない(やばいやつ、ヤバイヤツ、ヤバいヤツ、やばいヤツ・・・)
 クラスで1人悶々としていた陰キャの男子中学生が、ひょんなことからおもしれー女子中学生と出会うお話。表題の通り、本作は主人公心の機微にスポットライトを当てた作品になっているので、「どうせ僕(私)なんて・・・」みたいな陰キャ主人公が登場する作品の中でも特に1歩踏み込んだ心情描写が印象的。
 主人公は「僕の心にヤバいやつがいる」ということに強い執着のある少年で、事あるごとに「ほら、やっぱり僕はヤバいヤツなんだ」と自分に言い聞かせている描写があるのだけれど、
1 クラスに馴染めないという現実がある
2 自尊心が高いため、うまくその事実を受け止められない
3 合理的な理由を求める
4 そうだ、自分はヤバいヤツなんだ という自己暗示
 という思考を繰り返すうちに本当のヤバいやつになっていく過程の途上にある彼のことを、冗談交じりに「厨二病こじらせてる男の子だよね」なんて言葉で片付けるのが憚られるようなリアルさを勝手に感じている。そんな主人公が周りから痛い奴だと思われている事が、まるで自分を見ているようでつらい。
 また彼は冒頭のモノローグにあるように、クラスメイトの山田(本作のヒロイン)に対し予てより強い執着を抱いており、
1 クラスに馴染めないという現実がある
2 自尊心が高いため、うまくその事実を受け止められない
3 原因を外部に求める(自分は悪くない、という自己防衛的な思考)
4 そうだ、自分はクラスメイトから不当な扱いを受けているに違いない
5 クラス内のスクールカースト最上位は山田だから、あいつに復讐してみんなに分からせてやるんだ!
 みたいな。冒頭の、チラッとこっちを見てすぐ視線を戻した山田に対して『あいつ、俺を蔑むような目で見やがった!許せねえ・・・!』と主人公が憤るシーンで描かれている彼の(強い執着によって)歪んだ認知が、本作における物語のきっかけになっている。陰キャ主人公が陽キャヒロインに劣等感を抱くというお話は数あれど、本作ほど踏み込んだ描写をする作品はあまり見ないよね。明確に「殺したい」って言ってるし。
 また彼は「ヒロインを殺したい」という旨のモノローグ内で「きっと山田は、死体になっても美しい」と語っていて、彼女に対して劣等感だけじゃなく、独占欲、支配欲のようなものも抱いているのかな。端的に言って役満状態の主人公のキマり具合で言えば、まるで三島由紀夫の『金閣寺』の主人公みたい。
 その主人公が山田と交流していく中で徐々に「こいつ、実は残念美人なのでは?」という認識になっていくのだが、客観的に見て山田はその容姿を除き「中学2年生の女子を大きく逸脱したキャラ」じゃないのが面白いよね。山田を演じている羊宮妃那は「彼女が心の中で思っている事も含めて、すごく等身大の中学生女子」と自身のラジオ内で語っていたように、主人公が思っているより山田はずっと普通・・・普通?普通かなぁ・・・多分普通の女の子だと思う。
 彼女のリアル女子っぽさでいうと、本作は他のラブコメ作品と比べ、主人公と山田がクラス内で会話するシーンが非常に少ないのが印象的。普段の山田は友達の女子とわちゃわちゃしてるシーンが大半なので、その山田を遠くから眺めている主人公、っていう構図が大半なのもリアル寄りだよね。
 そんな、おもしれー女こと山田杏奈を演じるのは羊宮妃那。舞台が中学校ということで男女問わずみんな声がやや高めなキャラが多い中、身長が170cm以上ある山田だけちょっと声が低いニュアンスなのが印象的。単にサバサバした女の子特有の声の低さや、テンションの低い女の子特有の体温の低い声と違って、背が高い人特有の声の低さ、みたいなものを感じる。それこそ先のアニメ『その着せ替え人形は恋をしない』(訂正:正しくは『その着せ替え人形は恋をする』です!します!恋します!)でも体格に恵まれた女子中学生を演じている同氏は、そういうニュアンスのお芝居を的確に演じる技術を持っている、ということなのかな。めっちゃニッチな技術だ。
 そんな羊宮妃那さんが火曜日のパーソナリティを務めるラジオ番組『A&G NEXT STEP 羊宮妃那のHOOOOPE!』は、2023年4月から超A&Gにて放送を開始した帯番組。動画付き番組として毎週火曜日20時から生放送中。放送翌日には、Youtube文化放送チャンネルにて20分程度のダイジェスト版がアップロードされてるので、後追いする際はこちらを見てね。
youtu.be
 2話以降、主人公の一方的な感情を知らないまま、無邪気に幅寄せを繰り返してくる山田に対し、クソデカ感情に振り回された主人公がみんなの前で突飛な行動を繰り返してしまう様がコミカルに描かれている。「班ごとの発表で作った模造紙の資料をみんなの前で破り捨てる」「自転車を坂の上から放り投げる」「山田の似顔絵イラストを本人にプレゼントする」等の奇行を繰り返す彼はどう見てもやべーやつだし、もちろん本人はそれに自覚的なので
1 クラスに馴染めないという現実がある
2 自尊心が高いため、うまくその事実を受け止められない
3 合理的な理由を求める
4 そうだ、自分はヤバいヤツなんだ という自己暗示
というループにハマってどんどん孤立していく主人公。コミカルに描かれてるけど共感性羞恥でこっちまで死にそうになる。
 ところが、山田だけはそんな主人公を「おもしれー男」と全肯定してしまうため、主人公の想いとは裏腹にどんどん仲良くなってしまうんだよね。対する主人公は、その臆病な性格から「明らかに山田は自分のことを憎からず思っているという事実」を認めることができないため、無理くり理由をつけてまで「山田は、内心では俺のことを嘲笑っているに違いない」という逃げ道を作ろうとする姿が対比的に描かれている。そんな二人の追いかけっこみたいな心理描写がすごく丁寧で、ほんと思春期について凄まじいまでの解像度を誇る作品だな、って。
 また、最初に「僕の心にはヤバいやつがいる」という描写があったけれど、山田との交流を重ねていくうち「ヤバイやつ」の正体が徐々に明らかになっていくまでの心情描写がすごく好き。山田へのクソデカ感情がどんどん膨らんでいって、3話でついに名前を与えてしまうシーンがマジで良かった。
 ちなみに本作はシモネタが凄く多い。男子のクラスメイトのエロ知識がやたら豊富なのもそうだし、なにより主人公が山田でオナニーしまくってて草。ラブコメ作品『彼女、お借りします』の主人公は部屋中ティッシュだらけのツワモノだったけれど、アレと比べれば本作の主人公の方がまだ可愛げがあるのでまぁヨシ!
 ストーリー以外でいうと、主人公のキャラクターデザインが非常に印象的だった。ラブコメ作品の主人公って、「身長がヒロインより高い」とか「実はムキムキ」とか「前髪で隠れてるけど実はイケメン」とか、最低限であれ男性的な魅力を想起させるようなデザインになっているイメージがあったけれど、本作の主人公はそういった要素を全く持たないデザインになっているよね。身長で言えば山田のデカさが目につくけれど、それ以上に主人公が周りと比べてもすごく小さいし、痩せっぽちだし、身なりの整った山田に対し服のセンスが偏ってるし。彼の劣等感をそのまま表に出したようなキャラクターの造形だからこそ、山田が彼に抱く感情のガチ感がすんごい。たまたま一目惚れしたとかではなく、彼の色んな面を知ったからこそだよね。
 OPは、ヨルシカより「斜陽」。ざっくり言うと「僕はこの薄暗い道を1人で歩いて生きていく、という覚悟を決めた自分が好きだったのに。斜陽で照らされてしまって前が見えない!」という、主人公と山田の関係性を描いた歌になっている。
 表題の「斜陽」って、少し意外なワードだよね。山田ってめっちゃ陽キャだし、陰キャ主人公にとっての太陽という解釈なのはわかるけれど、それなら「朝陽」とか「日中の太陽」みたいなポジティブなイメージのほうが先に思い浮かぶと思う。それこそ『ぼっち・ざ・ろっく』は朝陽をモチーフにしているし。
 本作のOPアニメーションでは木陰にいる主人公が描かれているのだけれど、日中の太陽の光は木陰にいる彼に届かない一方で、沈んでいく太陽の光はゆっくりと木陰を覗き込むように彼を照らす描写が、今の山田と主人公の関係性を描いている。後半の歌詞に、徐々に主人公への想いを募らせていく山田のことを「落ちてゆく太陽」に喩えた歌詞があり、だからこそ「斜陽」なのかな、って。
 また、歌詞の中には「酸っぱい葡萄」を引用した一節がある。酸っぱい葡萄はイソップ寓話の一つで

 狐が己が取れなかった後に、狙っていた葡萄を酸っぱくて美味しくないモノに決まっていると自己正当化した物語が転じて、酸っぱい葡萄(sour grape)は自己の能力の低さを正当化や擁護するために、対象を貶めたり、価値の無いものだと主張する負け惜しみを意味するようになった。(Wikipediaの当該ページより)

 なんだって。主人公にとって山田は太陽くらい遠い存在で憧れの対象だけれど、だからこそ近寄りがたい対象でもあるっていう感情を端的に表した一節であるのと同時に、この曲が「あの山田が僕に振り向いてくれた!やったー!」という歌ではなく「酸っぱい葡萄が手の届くところに落ちてきてしまった。僕はどうしたら良いんだ。」と狼狽える主人公の心情を強く感じさせる一節でもあるように思う。この後に「あのお日様のように、落ちていくのに理由もないのならもう」と続くところがあんまりにもエモくて。二人共幸せになってくれ―っ!
 また、エモエモなエモロックバンドのサウンドに反し、柔らかいニュアンスの表現で静かに二人の空間を描いたOPアニメーションの雰囲気がめっちゃ良い。すげー丁寧に感情の機微を描くじゃん。
youtu.beヨルシカ「斜陽」
作詞・作曲・編曲:n-buna
絵コンテ:大地丙太郎
演出:赤城博昭
作画監督:勝又聖人
原画:黒澤桂子(かごめかんぱにー)



 桜井のりおによる漫画が原作。『週刊少年チャンピオン』にて2018年から連載開始し、『チャンピオンクロス』に移籍(現在は『マンガクロス』に統合)。てかこれチャンピオンなんだ。
 制作はみんな大好きシンエイ動画。ラブコメ作品をガッツリやるのは『からかい上手の高木さん』『カッコウの許嫁』以来。監督は『からかい上手の高木さん』『カッコウの許嫁』に引き続き赤城 博昭が担当。シリーズ構成は『空よりも遠い場所』『ラブライブ!』シリーズ、『やがて君になる』『ひとりぼっちの〇〇生活』『グランベルム』等でおなじみ花田十輝。キャラクターデザインは『五等分の花嫁』の勝又聖人(「五等分の花嫁∬」以降)。音楽は『平家物語』『チェンソーマン』『天国大魔境』等でおなじみ牛尾憲輔が担当している。

(ここから原作勢に語りかけています・・・アニメ2期が発表されていますが、これ以上あの二人に何を望むことがあるのでしょうか。めっちゃ綺麗に締めくくられているのに、これ以上あの二人に幸せになられたら私は一体どうなってしまうのでしょう。もしや、原作勢の皆様は相当な頻度で目を灼かれているのではないでしょうか。二人が幸せになるのは望むところだけど、逆に幸せすぎて怖いです・・・とりあえず原作買って塩漬けにしときます)

江戸前エルフ

 月島在住歴400年以上の邪神ちゃん
 江戸の頃から400年以上住んでいる御神体(エルフ)と、その神社の巫女に就任した女の子のお話。二人のかしましい日常を、コメディチックに描いている。
 ただの日常モノとは違う要素としては、神社の地域活動を通じて、その地域の文化を描くパートがかなりの割合を占めているところ。むしろ、神社の氏子さんとの交流を描くアニメという方が正しいかもしれない。
 御神体は江戸時代から日本在住なので、誰よりも日本の文化に詳しいという、ちょっと面白いキャラクターになっている。日常の何気ない話題から、江戸の文化や歴史を都度説明してくれる物知りおばあちゃんのような振る舞いをするので、ある意味神様っぽい。代わりに、ここ数十年は引きこもり生活をしていた影響で現代の東京に疎いため、巫女ちゃんが現代知識でマウントし返す、という面白い関係性が出来上がっている。

©樋⼝彰彦・講談社/「江⼾前エルフ」製作委員会

 特にユーザーの年齢層が高いことで知られるニコニコ動画では、江戸の文化を解説するシーンに「あったあった」「懐かしい」等のコメントが散見されているため、ちゃんと史実に基づいた解説みたい。東京の今昔を俯瞰的に学ぶことができるという意味でも、良い番組だよね。
 そんな御神体はずっと神社で祀られていたこともあって、割りとそっち方面の解説が手厚い。彼女を現在祀っている架空の神社の架空の神事でさえ、全くのデタラメではなく「当時の江戸ではこういう神事が流行っててさー」という補足付きで描かれているので、本物の神事より本物の神事っぽく見えてくる不思議。神事って神様のご機嫌を取るイベントという側面があるからまぁ、さもありなん。
 あと、特に食文化についての描写にやたら気合が入っている。というかもはや飯テロアニメ。2話は月島名物のもんじゃ焼きを食べる回なのだけれど、もんじゃ焼きの名称に関する由来や文化的背景、そして今のもんじゃ焼き(甘くないやつ)を知らない御神体を「そっかー食べたことないんだーww」煽り散らかす巫女ちゃん、もんじゃ焼きの作画、食事シーンの弾けるような笑顔等、本作らしさが溢れていてすごく良かった。

弾けるような笑顔。かわいい ©樋⼝彰彦・講談社/「江⼾前エルフ」製作委員会

 それにしてもキャラがくっそかわいい。漫画原作ということもあってやや等身が低いかわいいフォルムも、割りと多用されるデフォルメ顔も両方すき。また、線画の色が黒ではなくやや褐色系?なので、全体的な雰囲気が明るくなっているのも特徴的だよね。
 他の日常系アニメと比べ、本作は非常に情緒がある。というのも、異種間交流を描いたファンタジー作品で味わうことのできる「二人に流れる時間の違いから来るエモさ」が実は本作の裏テーマになっているようで、日常系アニメなのに少し切ないエピソードの多さが目立つ作品になっている。
 同じく「二人に流れる時間の違いから来るエモさ」を感じる日常系作品としては『となりの吸血鬼さん』が好き。同作の7話では、二人の寿命の違いを「花火や草花はすぐ消える(枯れる)から嫌い」という旨の吸血鬼ちゃんのセリフによって比喩的に描いていたけれど、翻って『江戸前エルフ』では何度もこういうモチーフがが登場している。日常の中にさらっと描かれているのでつい見落としちゃうけれど、意識して見返すとエモいシーンがホント多いよね。個人的にはシャボン玉のシーンがめっちゃ好き。
 なお、切ない心情描写がとても丁寧に描かれている作品ではあるけれど、全体のテイストはエモに寄せすぎず、切なさに寄せすぎず、ギャグに寄せすぎないバランスでまとまっているため、意外と視聴後感が軽快かつ明るいニュアンスなのも好き。わりと気軽に見返せるタイプの日常系アニメだよね。
 その御神体を演じるのは、『狼と香辛料』のホロでおなじみ小清水亜美。キレイなお姉さんだけれど、長命なので口調がわりとおばあちゃん。でも、ずっと引きこもっていた人間らしいか弱さ、声の張りのなさも乗っている。あと、生来の気質から来てそうな子供っぽい振る舞いを強調するような甘い声も入ってて、なんかすごい。
 一方、新人の巫女ちゃんを演じるのは尾崎由香。『けものフレンズ』のサーバル役で有名な同氏だが、底抜けに明るい声のお芝居が印象的だっただけに、本作ではその表現の豊かさにちょっとびっくりした。怒るお芝居も、呆れるお芝居も、寂しそうなお芝居も、そして底抜けに明るいお芝居も全部よかったし、コロコロ表情の変わるキャラなだけに沢山の表情が見れて満足。

youtu.beCody・Lee (李)「おどる ひかり」
作詞・作曲:高橋響
編曲:Cody・Lee (李)
ディレクター・コンテ・演出・撮影・編集:向 純平
総作画監督:小田武士



 『少年マガジンエッジ』にて2019年から連載されている、樋口彰彦による漫画が原作。
 制作は『魔女の旅々』『月が導く異世界道中』『プラオレ!〜PRIDE OF ORANGE〜』『転生したら剣でした』『便利屋斎藤さん、異世界に行く』のC2C。監督は『ひとりぼっちの○○生活』『プラオレ! PRIDE OF ORANGE』の安齋剛文。シリーズ構成は『食戟のソーマ』『処刑少女の生きる道』『あやかしトライアングル』のヤスカワショウゴ。キャラクターデザインは、同スタジオ作品『はるかなレシーブ』『魔女の旅々』でおなじみ小田武士。写実的な背景美術は、『魔女の旅々』に引き続きアトリエマカリアが担当している。

【推しの子】

 愛の宗教戦争
 表題から内容を推察しにくい作品その1。1話は90分SPとして放送された。本作の前日譚に相当するエピソードで、とある「完璧で究極のアイドル」についてのお話。
 他人がその人の幸不幸を勝手に推し量るなよ、という話ではあるけれど、どうしても彼女の波乱万丈な人生にはつい同情的になってしまう。同じく彼女と赤の他人である主人公たちにとって彼女の存在がいかに強い動機づけとなっていったのかを、視聴者として追体験するような挿話に仕上がっていてほんとすごかった。
 また、1話は主人公の視点とは別に完璧で究極のアイドル視点でもモノローグが展開されており、彼女の成長物語という縦軸が並行して描かれている。というか実質彼女が1話における主人公。本来の主人公は、彼女の観測者みたいな立ち位置であり、芸能界についても「へー、あの子ってこんな世界で頑張ってるんだなぁ」くらいの、どこか他人事のように描かれているのが印象的。
 彼女視点における1話の描かれ方がめちゃくちゃ面白かった。他者から見れば彼女は「心無い他人によって人生を狂わされてしまった悲運のヒロイン」なのかもしれないけれど、彼女の視点を通じて描かれていたのは「自身の愛を証明する物語」なんだよね。オチも含めて非常に綺麗に纏まっていてすごかったし、この物語を知る人物が全員退場してしまうからこそ、2話以降から始まる物語とバッティングしない(主人公が始める物語に対して「そうじゃないよ」と言う人がいない)っていう構成もすごく美しくて好き。
 ・・・と同時に、2話以降で描かれていくアイドルのお話についても、「内心では彼女は幸せだった」という事実によって「必ずしも、全てが虚構で出来ている、虚しい世界とは限らない」という希望をもたらしているように感じた。母じゃん。
 そして2話以降、そんな母の背中を見て育った二人が、かたや「アイドルに憧れる女の子」に、かたや「アイドル業界を憎む男の子」になっていくまでの過程が面白かった。そして、それぞれの視点から「アイドルってこんなに凄いんだよ!」という側面、それこそ『SELECTION PROJECT』のようなキラキラした世界と、「業界はこんなにクソなんだよ!」という負の側面を多角的に描いた作品になっていくのね。面白いのは、1話にして既に「じゃあ完璧で究極のアイドルになったらどうなる?」というゴールが既に描かれているところ。娘であるルビーには「母のようなアイドルになる」という目標と同時に「母のようにならない」という相反する命題が与えられてるんだよね。星野アイのモノローグで描かれている心情描写は他者に漏れていないため、彼女が母と同じステージに立った時に、母のそれに気づくかどうか、みたいなところもすごく気になる。
 それにしても声の演技がもう全員ヤバい。キラキラしたテーマを扱っているはずなのに、男女を問わず全員が低い地声を使ったお芝居をしていて、「キラキラと完全に真逆の群像劇」という異様さが1話から既に際立っている。セリフも、会話のキャッチボールではなくそれぞれが勝手に独白を繰り広げているようなセリフが多く、なんというかすごく殺気立っている感じのシーンが多いのも印象的だった。てかみんな殺伐としすぎやろ。サスペンスかよ。
 ところで、本作の冒頭は「これはフィクションである」というセリフから始まっている。そんな本作のリアリティラインについて。我々一般人にとっての「芸能界」は、非常にリアリティが希薄な世界であるため、「どの芸能人も、役をもらうために枕営業してる」とか、「アイドルは全員整形してる」といった荒唐無稽な言説でさえ、ある程度のリアリティを持ってしまう世界なんだよね。だからこそ、本作の「あのアイドルは、公表していないだけで実は2児の母」とか「あの子役は大人っぽいってみんなからチヤホヤされてるけど、実は人生2週目であることを隠しているガチの別人」といった本当のファンタジーも、一周回って「芸能界ファンタジーに包摂された、リアリティある物語」として仕上がっているのがすごく面白かった。原作者が丁寧に取材している芸能界のリアル事情という「本当」と、転生した主人公という「嘘」と、その間に広がるグラデーションを、「現実を知りたくない人向けのファンタジー」と「現実を知りたい人向けのルポライター」を包摂した「フィクション」というエンターテイメントにまとめてるのね。
 あと、本作はエンタメ業界、特にTVメディアを中心としたマスメディアに対しかなり批判的な内容の作品になっている。なのに、しれっとテレビで放送されているのは「これは全部フィクション!フィクションでーす!まぼろし~!」っていう建前があるからこそ実現できてるのかもね。
 アニメーションとしては、リアリティ重視の作画によって仕上げられているのが非常に印象的。動画工房の数ある作品群の中でも類を見ないほど作画が緻密で、動画工房作品の『イエスタデイをうたって』に通じるような、細かい表情の変化や所作による感情表現が非常に多彩な作品になっている。扱っているテーマの一つに「実写ドラマ、映画の制作」があるため、その撮影シーンにおける「計算されたお芝居の描写」が特に良かった。あとダンスシーンの作画も大概やばいよね。それぜんぶ作画アニメーションでやるんだ、って。
 てか主題歌よ。OPはYOASOBIより「アイドル」。YOASOBIがアニメ作品で表題曲を担当するのは『BEASTARS』『機動戦士ガンダム 水星の魔女』以来。BEASTARSはサスペンス要素のある群像劇、水星の魔女は戦争モノと来て本作なので、もう既に穏やかじゃない。
 EDは女王蜂より「メフィスト」。女王蜂がアニメ作品とタイアップするのは『どろろ』『後宮の烏』『チェンソーマン』以来。結構グロい時代劇のどろろ、サスペンス要素の強い後宮の烏、ポンポン人が死ぬチェンソーマンと来て本作なので、もう既に穏やかじゃない。

youtu.beYOASOBI「アイドル」
作詞・作曲・編曲:Ayase
絵コンテ・演出:山本ゆうすけ
作画監督:平山寛菜

youtu.be女王蜂「メフィスト
作詞・作曲:薔薇園アヴ
編曲:女王蜂、塚田耕司
弦編曲:ながしまみのり
絵コンテ・演出:中山直哉
作画監督:平山寛菜



 『週刊ヤングジャンプ』『少年ジャンプ+』にて2020年より連載されている、赤坂アカ(原作)、横槍メンゴ(作画)による漫画が原作。赤坂アカ原作の作品がアニメ化されるのは『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』以来で、横槍メンゴ原作の作品がアニメ化されるのは『クズの本懐』以来となる。
 制作は動画工房。監督は『私に天使が舞い降りた!』『恋する小惑星』『SELECTION PROJECT』の平牧大輔。助監督は『SELECTION PROJECT』にてダンスパートアニメーションを担当していた猫富ちゃお。シリーズ構成は『ゆるキャン△』『魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜』『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の田中 仁。キャラクターデザインは『彼女、お借りします』『SELECTION PROJECT』の平山寛菜。また、音楽として『恋する小惑星』『SELECTION PROJECT』に引き続き伊賀拓郎が参加している。実質セレプロ。
 作画チームの気合が凄まじく、総作画監督が4人(平山寛菜、吉川真帆、渥美智也、松元美季)、おまけにメインアニメーターを6人(納 武史、沢田犬二、早川麻美、横山穂乃花、水野公彰、室賀彩花)も立てている。総力戦やん。
 スタッフィングでいうと、EDのスタッフクレジットが「脚本」「絵コンテ」「演出」に続いて「カラースクリプト」を最初に表示する非常に珍しいクレジットになっている。本作のカラースクリプトは概ね助監督である猫富ちゃおが担当しており、要するに助監督がめちゃくちゃ頑張っているよ、ということらしい。

デッドマウント・デスプレイ

 吉良吉影の事件簿
 表題から内容を推察しにくい作品その2。非常に要素が多く、レビューが書きづらい作品の一つ。1話冒頭のファンタジー頂上決戦を経て異世界転生した主人公が、現代の日本で平穏に暮らそうとする異世界転生ファンタジー作品。
 主人公が率先して物語を動かしていく作品というより、それぞれの陣営視点で並行して物語が進んでいくタイプの群像劇。物語のハードさや戦闘の激しさ、それぞれの陣営の思惑が交差する血なまぐさい群像劇という意味では、個人的に『Fate/Zero』や『バッカーノ!』を思い出す。
 主人公について。主人公は異世界転生した異世界人で、かつ転生先が「ひょんなことから殺し屋に殺害された直後のとある少年」という設定。主人公本人は「今度こそ平穏な暮らしを手に入れるぞ!」という目標のために行動していくのだが、上記の理由からアンダーグラウンドの住人と仲良くなっていくお話に。
 また、序盤では転生先の(死亡した)少年についての身元が明かされていないため、主人公にとって平穏な暮らしを手に入れるために少年の命を狙うヤツをぶっ殺そうぜ、というストーリーが展開されている。「自身の平穏のために動く主人公のお話」と「少年の人生を紐解くお話」が本作のメインみたい。かなりミステリー要素は強め。
 その主人公の前世でのやらかしっぷりや、今世での「平穏に暮らしたい」という目標設定なんかを見ると『最強陰陽師異世界転生記』を思い出す。あっちはもっと主人公が策略家だったのに対し、本作の主人公は比較的素直なところがまだかわいいよね。

基本は不器用だが、魔法で人を殺すのは得意な主人公 ©成田良悟・藤本新太/SQUARE ENIX・「デッドマウント・デスプレイ」製作委員会

 主人公の所属する組織について。主人公が、自身の依代である少年を殺害した殺し屋と、殺し屋の所属する組織と縁を持つまでの過程が2話で描かれている。その後も組織のメンバーと主人公が仲間として行動していくのだが、この時点で主人公のバックグランドはあまり明かされていないため、殺し屋の組織から「こいつほんとに信用して大丈夫か?」と警戒されている、というちょっと面白い構図に。
 主人公は特殊な倫理観を持った人物のため、彼らの仕事(基本は人殺し)に同行したり手伝ったりするのだが、その仕事ぶりを通じて主人公の人となりを読み解いていくお話が展開されている。端的に言って主人公は吉良吉影みたいな人物だけれど、殺し屋のメンバーも大概ヤバい奴ばかりなので、一周回って逆に平和なところが好き。このメンバーが居る時だけ見られるコミカルな表情もいいよね。

基本は不器用だが、バールで人を殺すのは得意な女の子 ©成田良悟・藤本新太/SQUARE ENIX・「デッドマウント・デスプレイ」製作委員会

 主人公と敵対する組織について。当然のように主人公は警察と敵対することになるため、「警察と全面戦争をせずスルーしてもらう」という最終目標が設定されている。本作では主人公に限らず「超人的な能力を持つ犯罪者」がいて、またそれに対し「超常的な犯罪を専門に扱っている警察官という名前のヤバい連中」が登場するのだけれど、主人公の起こす事件を追いかける形で物語に関わってくるのと同時に、別の超人的な能力を持つ犯罪者と主人公たちが対峙する際に三つ巴の戦いがまた発生して、という物語も展開されていく。

普段は不器用だが、ステゴロで血祭りにするのが得意な警察官 ©成田良悟・藤本新太/SQUARE ENIX・「デッドマウント・デスプレイ」製作委員会

 面白いのは、主人公サイドも警察サイドも「世の平穏」という共通の目標があるところ。上記の通り世の理から外れた人間ばかり登場する本作において最大の敵は「世の平穏を乱すやつ」なので、それこそ『バッカーノ!』で描かれる、レイルトレーサーによる殺人事件と、それに対し色んな事情で対峙するマフィア達、みたいな面白い構図になっている。マジで悪人しか出てこない。
 それにしても戦闘シーンがすごい。GEEK TOYSの制作した作品の中でも本作は郡を抜いて戦闘シーンの作画に気合が入っている。主人公は召喚術師なので、単なる殴りあい、チャンバラではなく多数の召喚術による飽和攻撃で相手を制圧するスタイル。対する敵キャラはみんな超人的な動きで攻撃をかいくぐりながら主人公に迫る、という戦闘描写になっており、毎回『HUNTER×HUNTER』のネテロ会長vsメルエム戦みたいになっている。てか主人公の魔王感よ。お話のメインが各勢力同士の読み合い、頭脳戦みたいなところがあるので、ごく偶に訪れる激しい戦闘シーンが映像的に大きい緩急を生んでいるのも良い。
 また、音響効果は『JOJOの奇妙な冒険』シリーズ等でおなじみ小山 恭正が担当しており、あの「スタンドがパンチを繰り出したときの独特な音」が多分に盛り込まれている。特に1話冒頭の頂上決戦は小山さんのサウンドてんこ盛りなので、JOJOのSEが好きな人はぜひ見てほしい。音だけで幸せになれるので。

youtu.be



 『ヤングガンガン』にて2017年から連載されている、原作:成田良悟、作画:藤本新太による漫画が原作。成田良悟は『バッカーノ!』『デュラララ!!』でおなじみの作家で、放送中のアニメ作品『Fate/strange Fake』の原作者でもあるのね。
 制作は『プランダラ』『幻想三國誌 -天元霊心記-』『デート・ア・ライブIV 』『人間不信の冒険者たちが世界を救うようです』のGEEK TOYS。監督は『境界線上のホライゾン』『魔法科高校の劣等生』『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の小野学で、シリーズ構成も兼任している。また、脚本として菅原雪絵、冨田頼子が参加している。キャラクターデザインは『GUNSLINGER GIRL』『ベルセルク』『キングダム』の阿部恒。

スキップとローファー

 東京の高校に進学した『明日ちゃんのセーラー服』
 目指せ総務省の官僚。石川県の田舎から上京してきた女子高校生が、見知らぬ土地で、知らない人たちと一緒に学校生活を送りながら成長する姿を描く青春群像劇。
 個人的に、本作の主人公は今年度最優秀新人おもしれー女大賞候補まである。とにかく一挙一動がぜんぶ面白すぎて、全く目を話せなくなってしまう1話だった。大丈夫?と聞かれれば「もう完璧と言っても過言じゃないね!(過言)」と返しちゃう虚言癖も、授業初日に自己紹介があると聞けば、翌日まで寝ずに自己紹介を考え続けちゃう完璧主義な所とか。そんな周りからの期待に答えたくなっちゃう性格ゆえ、どんなに優しく投げられた球に対しても、誰よりも大きいホームランを狙ってバットを振る様がもう面白すぎる(そして空振りするまでがセット)。
 また、そんな彼女の最大の魅力は、失敗からの立ち直りの早さだよね。どの作品とは言わないけれど、最近見た「おもしれー女の成長物語」は
失敗したらどうしよう(わかる)
→いや、このままじゃだめだ!(わかる)
→でもやっぱりコワイ(わかる)
→頑張れ自分!(頑張れ)
→奇行(おもしれー女)
→失敗した・・・調子乗ってすみません・・・(わかる)
 という心理描写によって視聴者の共感を集めつつ、前向きな姿勢を描く成長物語だった。対する本作の主人公は、入学式でとんでもない失敗をした直後に「まぁ、あれはもう過ぎたことだし、実質ノーカンっしょ♪」と一瞬で立ち直ってしまう圧倒的メンタル強者に。もはや共感もクソもなくて草。失敗による挫折から大きくUカーブを描くように立ち直って、またくじけてを繰り返すキャラとしては、誰よりも早い周期で七転び八起きを繰り返すため、結果として非常に「おもしれー女」感あふれるキャラクターに仕上がっている。

爆速で立ち直る主人公 ©高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

 そんな主人公を演じるのは黒沢ともよ。いろんなキャラクターの中でも、特に本人の地声そのまんまなキャラクターになっている。お芝居も「ちょっと抜けたところのある」「お調子者な」「楽観主義」といった、もう本人じゃんみたいなお芝居になっており、言葉の端々から伝わるニュアンスが面白すぎる。まるで『宝石の国』1話に登場するフォスフォフィライト(最初期の姿)みたい。1話冒頭で、登校の身支度を整えた主人公の発した「・・・完璧。」があまりにもフォスで思わず笑ってしまった。ほんと魅力にあふれた声だよね。ご結婚おめでとうございます。
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©高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

 主人公が底抜けに明るい性格なので、それに引っ張られてアニメ全体のトーンが明るい作品になっている。また、そんな主人公の陽のオーラに照らされた周りの人間に、割とくっきり陰影が出ているのが面白いよね。もちろん絵的な陰影表現もそうだし、それがそれぞれのキャラクターにおける心理描写とちゃんとリンクしている演出になってて好き。いち視聴者的には「おもしれー女」ではあるけれど、彼女と長く付き合いのある人はきっと、何度も彼女の明るさに救われた経験があるんだろうな、という過去を思わせるような描写もあって。主線こそ陽キャのドタバタコメディだけど、ちゃんとしたドラマとして仕上がってるよね。

youtu.be須田景凪「メロウ」
作詞・作曲:須田景凪
編曲:久保田真悟
絵コンテ・演出:出合小都美
総作画監督:梅下麻奈未



 『月刊アフタヌーン』にて2018年から連載されている、高松美咲による漫画が原作。
 制作はP.A.WORKS。監督は『坂道のアポロン』助監督、『夏目友人帳』『ローリング☆ガールズ』監督の出合小都美で、シリーズ構成も同氏が兼任している。副監督は、P.A.WORKS作品『Fairy gone フェアリーゴーン』『劇場版 SHIROBAKO』『神様になった日』『白い砂のアクアトープ』等に絵コンテ・演出として参加している阿部ゆり子。
 キャラクターデザインは『ステラ女学院高等科C3部』『想いのかけら』の梅下麻奈未。総作画監督は『終わりのセラフ』『魔法使いの嫁』『呪術廻戦』に作画監督として参加している井川麗奈。背景美術は、P.A.WORKS作品でおなじみスタジオ・イースターが担当している。

天国大魔境

Disney+独占配信

 日本全体がメイドインアビス 
 文明崩壊後の日本を舞台にした、少年少女の冒険譚。序盤は2軸構成で、荒廃した日本各地を旅する二人組の大魔境パートと、外界から遮断された温室の中で平和に暮らす子どもたちの天国パートを行き来しながら、徐々に世界観を紐解いていく形式になっている。
 大魔境パートは男女の二人旅、ではあるのだけれど、それこそ『魔女の旅々』みたいな旅モノにある「一期一会の出会いと別れを描くドラマチックお話」はあまりなく、かなり淡々と進んでいく。各地で出会う人たちとの絡みも、概ね「たくましく生きているおじさん、おばさんの日常を、よそ者が少しだけ垣間見る話」くらいの温度感なので、お互いに結構ドライだよね。ポストアポカリプスモノでありながら非常に生活感のある描写が多いので「文明が後退した日本で暮らす日本人の日常を描いた作品」と言う方がしっくりくる。
 また、この世界では「恐ろしい魔物が跋扈している」という、ピクミン並みに恐ろしい世界のため、ちょくちょくモンスターハンターの描写がある。最近のProductionIG作品は人vs人のアクションシーンを描く作品がしばらく続いていたので、久しぶりに人vs人外のアクションがガッツリ見れて嬉しい。あとグロ注意。
 一方の天国パートはサスペンスドラマ。外界から遮断された箱庭で悠々自適に暮らしていた少年少女たちが、ひょんなことから施設の実態を知ってしまい・・・のやつ。最近だと『シャドーハウス』『約束のネバーランド』がそういったミステリー・サスペンス要素のある作品として印象に残っているけど、本パートのテイストもまた両作と似た緊張感のある雰囲気を醸し出していて好き。
 強いて言えば、外の状況が全くわからない作品と違い、本作は外界の状況が最初から視聴者に開示されているため、上記のような作品ほどアドベンチャーしているわけではない、という点が特徴かも。どうせ外は文明が滅んでんねん!脱出したとて、なんやねんお前、あんなんで生きられんの?無理やろどうせ、はよ施設に戻り!みたいになりそう。
 両パートの共通点は、それぞれの主要な登場人物がU20の少年少女という点。SFサスペンスなシナリオや激しいアクションシーンもすごく良いけど、加えて彼らのティーンエイジャーらしい心情描写も丁寧に描いた作品になっている。多分まともな性教育を受けてこなかったからこその歪な発露の仕方がすごくかわいかった。
 これはどうでもいい話なのだけれど、個人的に「自身の脳を、異性の肉体に移植されてしまった男性(肉体は女性)、もしくはその逆」という属性のキャラが好きなので、本作の登場人物が非常にツボだったりする。意識や記憶だけ入れ替わった男女逆転キャラは逆に苦手なので、ここも地味に嬉しいポイントだった。
 絵作りでいうと、本作は廃墟アニメの中でも特に背景美術がすごい。主人公たちは地方を旅していることもあり、都会のビル群ではなく地方都市の非常に現代的な街並みの廃墟が中心に描かれている。地方民としては崩壊した都会のビル群を描いた廃墟より、こっちのほうがリアリティが高く感じる。実際ああいう廃屋って街の中にあるよね。
 しかもただ通り過ぎるだけではなく、その廃屋の中を探索する描写によって屋内まで丁寧に描いているのがすき。よく見ると小物に至るまでちゃんといい感じに劣化している様子が見えるので、本作は廃墟の町を描くことにかなりの熱量を割いているように思う。取材とかしたんかな。

youtu.be



 『月刊アフタヌーン』にて2018年から連載中の、石黒正数による漫画が原作。
 制作はProduction I.G。監督は『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』共同演出、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』絵コンテ等でIG作品に参加している森大貴。シリーズ構成は同じくPSYCHO-PASSシリーズに脚本として参加している深見真。シリーズ構成を担当するのは『★★ロックシューター DAWN FALL』以来かな。
 キャラクターデザインはうつした(南方研究所)。同氏は、ハチ氏(米津玄師)がニコニコ動画にオリジナル曲をアップしていた頃からMVの制作を担当してたスタジオ(砂の惑星とか)で、アニメーションキャラクターデザインを担当するのは初だったりする。どういう縁で?と思ったけれど、本作の原作時にCM制作を担当してたのね。

地獄楽

アマプラ、ネトフリ、ひかりTV独占配信

 時代劇風のバトルロイヤルと見せかけてメイドインアビス
 ひょんなことから、とある宝島に赴いた罪人と下手人のお話。不老不死の薬を見つけるまで帰れないという条件のもと、罪人と(罪人の)お目付け役たちが殺し合ったり手を取り合ったりしつつサバイバルする様が描かれている。メインで描かれるのは、とある忍者と女下手人のコンビ。1話では忍者の、2話では下手人の過去が描かれていて、二人の対比が凄く印象的な作品になっている。
 忍者について。さすが忍者きたない。幼い頃から殺戮マシーンとして育てられてた忍者は躊躇なく人を殺す罪人で、「オレはこんな汚れ仕事なんかやめて、カタギの人生を始めるんだ!人殺しなんてもうまっぴらゴメンだね!」とか言いながら、いつも殺し方がエグいのが印象的。更生前の人斬り抜刀斎みたいな。
 女下手人について。めっちゃ美人。下手人としての家系と無縁の道を選ぶことができないという生い立ちから、消極的な理由で下手人になった人物。人斬りに消極的で、かつ「あのお祖父様のように、最も罪人を苦しませずに美しく処刑する技を身につけるんだ!」とか言いながら「綺麗な殺し」に執着する人物として描かれている。
 身体的な特徴も「チビ」「顔に特徴が無い」「もじゃもじゃ」「常に黒い装束」に対する「モデル体型」「美形」「長髪」「白い装束」と、綺麗な対比になっている。凸凹コンビっていうより「水と油」とか「コインの裏と表」みたいな二人。
 そんな二人を、「人殺しのプロ」という共通項から「人を斬るということへの、それぞれの向き合い方」という部分を掘り下げることによって、お互いに関心を抱いてゆくストーリーになっていて面白い。
 二人の重要な違いである「悪い殺し」と「良い殺し」という要素も、治外法権である宝島への上陸とそこで起きる騒動によって取り払われるため、島の中では二人が対等な立場になる、というのも面白い。主従関係を築いていくお話ではなく、実はこれバディモノなのかな。
 その後も、いろんなコンビのヒューマンドラマが描かれていくみたい。ただ、人vs人は実はさほどメインではなく、むしろ人vs超人がメインなのね。
 それにしてもアクション作画よ。やっぱりMAPPAってすげー。人対人の剣戟アクションがメインと思いきや、割となんでもアリなアクション作品だった。
 また、背景美術も幻想的。舞台が極楽浄土をモチーフにしているため、画面が常に色とりどりですげー綺麗な背景美術になっている。そして目が痛い。

youtu.be



 『少年ジャンプ+』にて2018年より連載されていた、賀来ゆうじによる漫画が原作。
 製作は『ゴールデンカムイ』『アイ★チュウ』『ブッチギレ!』のツインエンジン。そして制作はMAPPA。監督は『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』『賭ケグルイ双』の牧田佳織。シリーズ構成は『体操ザムライ』『takt op.Destiny』『勇者、辞めます』『賭ケグルイ双』にて脚本として参加していた金田一明。あ、そうそうタクトオーパスのアプリがついに配信開始したらしいけれど、どう?面白い?
 キャラクターデザインは『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』にてメインアニメーターを務めた久木晃嗣。また、久木晃嗣と同じくメインアニメーターを務めていた𠮷田正幸が、本作のキーアニメーターとして参加している。実質囀る鳥は羽ばたかない。

マッシュル-MASHLE-

 ハリーポッターと筋肉の魔法
 ひょんなことからホグワーツに入学することになったマグルのお話。魔法が使えない体質を隠しつつ、学校一の優等生を目指して日々奮闘する日常が描かれている。
 魔法学校のモチーフは多分『ハリー・ポッター』シリーズが元ネタで、作中でちょくちょくオマージュしている。
 世界観も似ていて、ハリー・ポッターシリーズでは主人公とエリート階級の倅との対立を通じて階級社会や優生思想、魔法が使えない人種に対する差別が描かれていたけれど、本作もまた同様の排外的な社会構造が物語のキッカケになっている。
2話以降も、庶民でかつ魔法が得意じゃない(苦手、と嘘をついて入学した)主人公は事あるごとに差別的な扱いを受ける描写がある。そんな社会の縮図みたいな魔法学校で頂点を目指していく主人公が、あらゆる障害を筋肉式魔法という名前の暴力で解決していくコメディ作品。つまりハリー・ポッターに必要だったのは筋肉。
 異世界転生した主人公が魔法の才能に目覚めて魔法学校に入学し、その才能を発揮する傍ら勧善懲悪に励む作品って最近よく見るけど、あれに登場する「現在は誰も使うことのできない古代の魔術を主人公だけが使えて、それを駆使し悪を挫くが、周囲の人間はその魔法が凄すぎて何が起きているかわからず、結果的に主人公はお咎めなし」のアレが、本作の筋肉魔法に相当してるのね。確かに一周回って古代魔法みたいなもんか。
 ハリーポッター並のハードなシナリオがギャグテイストで描かれているので、一転して「そんなんアリかよwwww」のオンパレードに。あと「超すごい魔法」よりも「超すごい筋肉」のほうが直感的に解りやすいため、総じてギャグシーンで瞬発的に笑いやすい作品になっている気がする。
 それにしてもギャグの勢いが凄い。1話冒頭で口火を切るのは主人公の父親を演じるチョーさん。もう絵と声の勢いが凄くて。その後も、登場するツッコミ要員がみんな『銀魂』のキャラみたいなツッコミをしてくるので毎回笑っちゃう。やっぱり勢いって大事。



 『週刊少年ジャンプ』にて2020年から2023年まで連載されていた、甲本一による漫画が原作。
 制作はA-1 Pictures。監督は『七つの大罪 戒めの復活』副監督、『VISUAL PRISON』『Engage Kiss』監督の田中智也。シリーズ構成は『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』『僕のヒーローアカデミア』『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』の黒田洋介。キャラクターデザインは『ブルーロック』にてチーフアクションディレクターを務めている東島久志。

山田くんとLv999の恋をする

 学生同士の恋愛版『ネト充のススメ
 彼氏と始めたネトゲが原因で別れてしまった女子大学生が、ひょんなことからそのネトゲをきっかけにイケメンゲーマーと出会うお話。
 オンラインゲームや、それをプレイするオタクを題材にした恋愛モノって『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』や『ネト充のススメ』や『オタクに恋は難しい』みたいなネトゲ男子xネトゲ女子、という作品が多いイメージだけれど、本作は「ネトゲ男子xパンピー女子」という作品になっている。ちょっと古いかもだけど『げんしけん』の春日部咲さんを思い出した。
 女子のほうが年上なので、てっきり「オタク男子がハイスペ女子と出会ってどんどん変わっていく成長物語」みたいなものを想像したけれど、むしろ逆っぽいよね。ゲーマー男子のほうが常識人という。主人公の女の子は可愛いけれど、大学生特有の「嫌なことがあったらとりあえず友達と酒飲んで超たのしくなっちゃえばオールOK!」ってなるあの感じがよく描かれていて、絶妙にだらしないキャラになっている。キラキラしている風を装ってはいるけれど、やってることは『ぐらんぶる』とあんまり変わらなくて草。
 あと、特に印象的だったのが、ゲーマーの描写が今っぽい感じにアップデートされているところ。アニメ作品で描写されるネットゲーマーは「陰キャで、部屋で一人ぼっちでテレビに座ってゲームパッドでずっとカチカチしてる」みたいなステロタイプが永らく愛されてきたイメージだが、本作のゲーマー男子は「シンプルな部屋、デスクトップPCにPCデスク、複数のワイドモニタの前でヘッドセットで常に会話しながらゲームをしている」みたいな、実際のゲーマーにかなり近い描写になっている。少なくともマイナスのイメージを持つ要素ではないところが少し新鮮。

1話にして朝チュン ©ましろ/COMICSMART INC./山田くんとLv999の製作委員会

 登場するたび衣装や髪型が変わるキャラっていいよね。本作の主要な登場人物は大学生なので、毎回おしゃれな私服で登場している。成人男性と成人女性の恋愛モノって概ね社内恋愛の作品がメインなので、実は貴重なのかもしれない。対比的に、衣服に無頓着な山田はいつも格好一緒で、ちゃんと履いてる靴も同じだったりする。そういうの好き。
 絵の雰囲気は、全体的に柔和なテイストで統一されている。マッドハウスの作品でいえば『虫かぶり姫』も似たタッチの作品だったけれど、あっちは主人公がゆるふわ系女子のファンタジー作品だったので、現代劇である本作は雰囲気が随分異なって感じるよね。あと、恋愛の進展に関わるような重要なシーンで急にリアルな作画になるのでドキッとする。特に駅前で傘を渡すシーンとか。思わず主人公を追いかける山田くんの足元しか映らないシーンだけど、彼の心情がめっちゃ丁寧に描かれていて凄く良かった。あのシーン、音楽もめっちゃ良いのよ。

©ましろ/COMICSMART INC./山田くんとLv999の製作委員会

youtu.beKANA-BOON「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ
作詞・作曲:谷口鮪
編曲:KANA-BOON
ゲストボーカル:北澤ゆうほ
絵コンテ:浅香守生
演出:礒川和正
作画監督濱田邦彦



 『GANMA!』にて2019年から連載されている、ましろ氏による漫画が原作。
 制作は『takt op.Destiny』『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』『オーバーロードIV』『虫かぶり姫』のマッドハウス。監督は『カードキャプターさくら』『ちはやふる』『俺物語!!』の浅香守生。副監督は『ちはやふる』にて監督補佐を務めていた渡邉こと乃。シーズ構成は『地縛少年花子くん』『かぐや様は告らせたい』『カッコウの許嫁』『ワールドダイスター』の中西やすひろ。キャラクターデザインは『NANA』『ちはやふる』『俺物語!!』の濱田邦彦。他にも、ちはやふるに参加していた主要スタッフ本作に参加している。実質ちはやふる
 音楽はミト(クラムボン)×DE DE MOUSE。この組み合わせで劇伴を担当するのは、あの『ワンダーエッグプライオリティ』以来2回目なのね。ワンエグのサントラ持ってます!

君は放課後インソムニア

 きれいなよふかしのうた。石川県七尾市のご当地アニメ。
 ひょんなことから一緒に天文部の活動をすることになった高校生男女のお話。表題になっている「インソムニア」は不眠症の意で、1話では不眠症を患う二人の、ドラマチックな馴れ初めが描かれている。
 ドラマチックな演出の1話からガラッと変わって、2話以降はすごく普通の高校部活モノが始まる。活動内容は「天文部」で、二人で天体観測の練習したり、OBに練習付き合ってもらったり。同じく天文学(と地質)をテーマにした作品『恋する小惑星』よろしく日常系の部活アニメとして進んでいく。本作は特にカメラ(天体撮影)の描写がガチで、非常に具体的な撮影ノウハウを学べる内容となっているので、観ているとすごくカメラが欲しくなる。「あーISO感度高すぎたか~w」ってやつやりたい。
 その日常パートでは「インソムニア」要素はほぼ描写されていないのが印象的。二人共、それなりに充実した学生生活を送っているように見えるよね。割りと元気そうだし。
 もちろんインソムニア要素が消滅したわけではなく、通奏低音みたいな形でちゃんと描かれている。クラスに馴染んでいるようで「やっぱり自分だけはみんなと違うんだ」と一線を引いているような描写がめっちゃ思春期のそれ。
 また、不眠症=いつも体調が悪いヤツというシンプルな意味に限らず、特にプライドの高い主人公にとっては「みんな当たり前に出来る事が、自分だけできない」という劣等感の象徴だし、ヒロインにとっても不眠症は人に言えない、恥ずかしいことであり、自宅で眠れない=自宅が自分の居場所じゃないという「マイルドなDV被害者」みたいな状態になっているんだよね。だからこそ学校では普通なのかも。
 そんな二人にとって、お互いが「人に言えない秘密を共有できる相手」であり、かつあの場所がただの寝床じゃなく「二人にとっての唯一の居場所」という意味を担っているのが非常にエモい。自宅でもなく、学校でもなく、学校の部室だけが唯一安心できる場所、みたいな感覚はちょっと分かる。
 全体的にわりと淡白な演出の作品ではあるけれど、時々めっちゃエモい話が挟まっているのが印象的。特に5話の天体撮影は、幻想的な背景と音楽」、瑞々しいキャラクターのお芝居、メインキャストである佐藤元、田村好両名の弾けるような声等いろんな要素が合わさって凄まじい青春の1ページに。それまでの日常が実は二人にとって「眠れない」という抑圧を含んでいたからこそ、5話で一気に爆発してる感じがあってめっちゃ良かった。
 あとヒロインこと曲伊咲のキャラデザいいよね。彼女は水泳部ということで、比較的がっしりした体型に。「めっちゃ太ってね?」って思う人がいるかも知れないけれど、水泳やってるとあんな感じの体型になるんですー。太ってるわけじゃないから。特に肩周りがめっちゃリアルで好き。ただ、この学校みたいに野外プールで活動する水泳部に入ると、夏はマジで茄子みたいに日焼けするので注意。おまけに日焼け止めもあんまり意味ないし。

youtu.be



 『ビッグコミックスピリッツ』にて2019年より連載中の、オジロマコトによる漫画が原作。アニメの放送と同じタイミングで実写映画が公開されているという、ちょっと珍しいメディアミックス作品。
 制作は『東京リベンジャーズ』『うちの師匠はしっぽがない』『永久少年 Eternal Boys』のライデンフィルム。監督は同スタジオ作品『はねバド!』『無限の住人 IMMORTAL』『アラド:逆転の輪』等に演出として参加している池田ユウキ。監督は初かな。シリーズ構成は『理系が恋に落ちたので証明してみた。』『オルタンシア・サーガ』『七つの大罪 憤怒の審判』の池田臨太郎。キャラクターデザインは『プランダラ』の福田裕樹。
 ご当地アニメということで、背景美術は写実的な作風でおなじみ草薙が担当している。美術監督は『ギヴン』『IDOLY PRIDE』『ゾンビランドサガ リベンジ』の大西達朗。

青のオーケストラ

 響け!ヴァイオリン
 1話、2話は前日譚。父親との確執からヴァイオリンを永らく忌避していた主人公が、ひょんなことからヒロインの女の子と出会い、再起するまでの顛末が描かれている。前後編になっているので一気見を推奨。
 優れた音楽家の子供が親から熱心な教育を受けて高い技術を身に着けていくが、その親がクズすぎて習い事も含めて全部嫌いになっちゃった、というよくあるお話。1話では、ものすごくたっぷりの尺感で、主人公が延々と「なぜヴァイオリンを嫌いか」を語っているのが印象的。続けない理由を強弁することで、逆説的にそれに対する強い執着を描く、という手法は『もういっぽん!』に通じるものがあるよね。
 主人公が父親から受けた呪いについて。父親が嫌い、だから父親から教わったヴァイオリンも嫌い。言葉にすると単純だけど、本作では特定の出来事に絡めた描写だけでなく「父親の匂いが嫌い」「父親の声が嫌い」「父親の音が嫌い」「父親と一緒にいた部屋が嫌い」といった、五感に訴える描写を含めた「立体的な嫌悪感」が丁寧に描かれていて凄く良かった。そりゃヴァイオリンも「父親の記憶を呼び起こすトリガー」になるから嫌いになるよね。また、そんな主人公の呪いを少しずつ解いていったヒロインが「上手な音を出す人」ではないところが凄く重要だったんだな、って。
 そんな主人公を演じている千葉翔也の、「腹の底ではめっちゃ不満なんだけど、それを隠して納得をしたフリをしている、抑圧されている人」のお芝居がめちゃくちゃ好きなので、本作ではその雰囲気が1話から爆発している。
 あと、それまで主人公にとって音楽=父親とマンツーマンで作っていくもの、という認識だったのが、ヒロインと出会うことで「自分以外の他者と一緒に演奏するもの」という認識にアップデートされることで呪いの解除に繋がっていく展開が、そのままオーケストラに参加するきっかけに繋がっていく展開がとても綺麗で好き。
 そして音楽よ。ちょっと上で言及した『もういっぽん!』では、1話ラストの展開がすごくカタルシスがあって最高にエモい構成だったけれど、本作も1~2話でずっと続いていた主人公の抑圧が、2話ラストで爆発する演奏シーンが非常にエモかった。ポンと上手な演奏をいきなりアニメで放送されても「お、おう」としかならない耳の越えた我々でも、散々「下手くそ」と主人公にこき下ろされていたヒロインの演奏を聴かされた後にあの演奏なので、「どーせめっちゃ上手い演奏がくるぞ・・・!」と分かっていたのにめちゃくちゃ感動してしまった。すげー楽しそうに演奏するじゃん・・・。

youtu.be



 『マンガワン』『裏サンデー』にて2017年から連載されている、阿久井真による漫画が原作。舞台となるのは、実在の千葉県立幕張総合高等学校シンフォニックオーケストラ部。
千葉県立幕張総合高等学校シンフォニックオーケストラ部
 製作はNHK。制作は、『ハクション大魔王2020』『やくならマグカップも』『ラブオールプレー』の日本アニメーションNHK製作のアニメはラブオールプレ―以来。監督は『結城友奈は勇者である』『ようこそ実力至上主義の教室へ』『あそびあそばせ』『ラディアン』の岸誠二NHK製作のアニメは『ラディアン』以来。副監督は、日本アニメーションの作品『やくならマグカップも』演出チーフの前田薫平。シリーズ構成は『白い砂のアクアトープ』『うる星やつら』『Buddy Daddies』の柿原優子。監督とは『月がきれい』にてタッグを組んでおり、またキャラクターデザインの森田和明色彩設計の伊東さき子等、月がきれいのスタッフが多く参加した作品になっている。ちなみに本作の主人公を演じている千葉翔也もまた、月がきれいの主人公を演じていたりする。
 音楽は『サマーゴースト』にて劇伴を担当した小瀬村 晶。本作のメインであるオーケストラ演奏は、洗足学園フィルハーモニー管弦楽団が担当している。
 面白いのは、NHKでは本作の放送にあたり、クラシック音楽をテーマにした関連番組を結構たくさん放送しているところ。アニメ関連の番組なのに、プロの音楽家が音楽の入門解説してるような内容の番組をサラッと入れてくるあたり、ほんとNHKすごいなっていつも思う。Youtubeの声優特番とかじゃ中々できないことだよね。

カワイスギクライシス

 地球上の動物に初めて触れる人の動物番組
 ひょんなことから地球を調査しにやってきた宇宙人が、地球上の動物と触れ合うお話。主に人間の調査をする名目でやってきたはずが、自然な流れで動物(主にイエネコ)愛好家へと華麗に転身していくさまが描かれている。
 表題の通り、本作はペット動物の可愛さを描いた作品ではあるけれど、先のアニメ『夜は猫といっしょ』が「飼い猫の可愛い仕草を、飼い主視点で観察する作品」であるのに対し、本作は「初めて猫に触れた宇宙人のすさまじいリアクションを、ペットの飼い主視点で観察する作品」なので、微妙に作品の趣旨が違う。
 そのため、動物たちのアニメーション的な脚色は割と控えめなのに対し、文字通りこの世の終わりかってくらい絶叫する主人公と、それを見てホクホクしているペット好きの友人(地球人)という構図に。さては平和なアニメだな、これ。
 そんな主人公演じるのは花守ゆみり。バトル漫画の主人公のような激しい役を演じたこともある同氏だが、かつて無いほど絶叫してて草。猫とバトルしてるシーンのテンションだけなら『結城友奈は勇者である』シリーズの三ノ輪銀といい勝負してる。
 同氏の演じる主人公に限らず、ゲストキャラとして登場する宇宙人たちは全員リアクション芸人なので、回を増すごとにリアクションだけがどんどんインフレしてくのほんと草。最終的にどうなるんだこれ。

youtu.be



 『ジャンプスクエア』にて2019年から連載されている、城戸みつるによる漫画が原作。
 制作は『大正オトメ御伽話』『カッコウの許嫁』のSynergySP。監督は『大正オトメ御伽話』の羽鳥潤。キャラクターデザインも『大正オトメ御伽話』より渡辺まゆみが続投している。シリーズ構成は『もういっぽん!』の皐月彩。

ワールドダイスター

 浅草のかげきしょうじょ!表題の読みは「ワールド」「大」「スター」
 ひょんなことから浅草の劇団に所属することとなった舞台女優のお話。定期公演を通じ、舞台人として成長していく姿を描いていく。お話の流れも、次の舞台どうしようか?→練習パート→本番→次も頑張ろうね!→次の舞台どうしようか? を繰り返していく感じみたい。
 ベースは日常、スパイスとして舞台の要素。タカヒロ原作ということもあり、同氏が原案を務めた『結城友奈は勇者である』とか『RELEASE THE SPYCE』の日常パートや、同氏が脚本を一部担当している『ゆるゆり』のノリを彷彿とさせるゆるい日常のやり取り。本来なら、もっと頭身の低いデザインのキャラクターで描かれることが多いノリのような気もするけど、演劇シーンでのお芝居に適した四肢の長さになってるのね。中~高校生くらいの年齢なのにみんなめっちゃスタイルいいな。
 それにしても、舞台のパートがヤバい。舞台をテーマにしたアニメって、声の芝居や歌の芝居、ダンスのお芝居にフォーカスした分かりやすい描き方をよく見るのだけれど、翻って本作は純粋な身体表現にフォーカスした作品になっているのが印象的。実際の舞台人にお芝居をしてもらったものをトレス作画したかのような、ヌルヌルした生々しいお芝居が繰り広げられていて驚いた。足先から指先、目線に至るまで身体のすべてを使った表現の、細かいニュアンスまで全部絵で表現しちゃってて、凄い情報量の映像に。あまりにも生なので、もはや恐怖まである。
 その一挙一動に細かい説明はなく、視聴者としては「なぜ座った状態でお芝居を始めたのか」「なぜこの瞬間、この子は視線を伏せていたのだろうか」を想像できるだけの十分な余白がある、という意味でも実際の観劇に似た魅力を持っているよね。
 おまけに声のお芝居も、それぞれの声優が「そのキャラの声が演じているような声」ではなく、完全な別人格を彼らの本域で演じているため、文字通り別の作品に。声優ってすげー。
 演目も面白い。基本的にキャラゲーが原作ということもあって、それぞれのキャラが一番輝きそうな架空の演目を用意するという演出の方法もあっただろうに、わざわざ古典(1話では人魚姫)をチョイスするという。キャラクターの描き方も「この子は雰囲気がこの登場人物にぴったり」みたいなファッション感覚ではなく、「その登場人物を演じるにはどういうアプローチをするのか」「この登場人物の舞台での役割は何か、それを最も的確に遂行できるのは誰か」という演技論でキャラクターを描き分けている、というこれまた非常に硬派な描き方になっている。そういうところは非常に『かげきしょうじょ!』に通じる魅力があるよね。演目がクラシックなので、逆にそれぞれのキャラの芝居観が強調されているのが面白かった。
 主人公がボロクソに言われた2話のお芝居も、単に発声が駄目とか歌が下手とか、わかりやすい欠点ではなく「キャラクターの掘り下げが十分出来ているかどうか」「芝居のアプローチが十分に練られているかどうか」という旨のダメ出しをされていて、そこから3話の「役作りとはなんぞや」という話に続いていく。そんな感じで、ほぼ「演技の持つ面白さ」を中心に描いた、ある意味ニッチな作品に。
 ちなみに主人公のオーディションでの失敗について、主人公の中の人である石見舞菜香、長谷川育美が公式ラジオ番組で「オーディションの現場で、前の人が凄いお芝居をしているのを見てしまい、それに引っ張られて自分らしい芝居ができずオーディションに落ちるのはよくある失敗」と共感していたのが印象的だった。
 あと、ゲーム原作らしいイロモノ要素として「演者にはそれぞれ超能力を持っている」と言う設定があるため、ちょっとした異能バトルみたいな要素は含まれているのだが、「時間を停止する能力」とか「他人の心を読む能力」とか「分身を生み出す能力」とか、全体的に控えめな能力が多く、ラブライブのライブシーンにおける領域展開のような必殺技は登場しないみたい。あくまでお芝居をする上でそれぞれの役者の長所の一つ、という描写に留まっていているのかな。ゲームの方はしらんけど。



 『アカメが斬る!』『結城友奈は勇者である』『RELEASE THE SPYCE』でおなじみタカヒロが原案を務めるオリジナルアニメ。バンダイナムコフィルムワークスによるメディアミックス作品で、ゲームアプリが2023年夏よりリリースされている。
 制作は『IDOLY PRIDE』『逆転世界ノ電池少女』『HIGH CARD』のLerche。監督は『IDOLY PRIDE』監督、『あそびあそばせ』助監督で、全話の絵コンテを担当していた木野目優。あのOPの絵コンテ・演出を担当したのもこの人だったりする。シリーズ構成は『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』『地縛少年花子くん』『カッコウの許嫁』の中西やすひろ。キャラクターデザインは『リーマンズクラブ』『UniteUp!』の、まじろ氏。ちなみに戯曲の脚本を担当しているのは『ようこそ実力至上主義の教室へ』『神無き世界のカミサマ活動』で脚本を担当していた江嵜大兄で、本作の脚本の約半分を担当している。
 演劇がテーマということで、ミュージカル調の楽曲が非常に豊富な本作には『アイの歌声を聞かせて』『ヒーラーガール』でお馴染み高橋諒が参加している。個人的な推しポイントはここ。

彼女が公爵邸に行った理由

 主人公がサルじゃないハメフラ
 ひょんなことから転生した彼女が、破滅フラグを回避するため公爵邸に行くお話。話の大筋としては『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』が近いかもしれない。攻略対象はラスボスというより主人公だけれど、2面性があるという点も含めてラスボスみたいなもんでしょ。登場人物が主人公含め腹黒いキャラクターばかりなので、悪役令嬢モノもびっくりのヘビーな展開が多い作品になっている。
 てっきり敵しかいないライアーゲームでも始まるんじゃないかと身構えていたのだけれど、微妙に脇の甘い主人公が3話にして、かの腹黒イケメン公爵に「おもしれー女」認定されててちょっと笑った。実は本作、身分違いの恋愛を描く王道ラブストーリーなのでは?そういう意味でも『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』に似た魅力を持った作品になりそうな予感。
 主人公を演じるのは宮本侑芽。復帰おめでとー!!同氏が演じるキャラとしては、『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』の主人公に負けず劣らず喋り倒している。
 ただ喋るキャラというより、「公女として振る舞う彼女」と「転生前の人格」の使い分けが巧みで、特に彼女のナチュラルなお芝居は「小説の登場人物に紛れた一般人」感があってめっちゃ好き。『オーバーロード』のアインズ様ほどON/OFFが激しいキャラでこそないが、でもちゃんと声色にON/OFFがあるっていう。
 また、心の声(転生前の人格)だけでなく、使用人たちとのコミカルなやり取りの中で素の彼女が見え隠れする描写は多くあるので、全体を通して非常に表情が豊かで、魅力的なキャラに仕上がっているよね。おもしれー女。
 それにしてもピアノの表現力ってすごい。劇伴はクラシカルな楽曲が中心で、特にピアノだけのシンプルな音楽が印象的。そのピアノの音も、ほんといろんな音色で感情の機微を描いていて。



 韓国のウェブ小説投稿サイト、カカオページ(https://page.kakao.com/)にて2016年から2018年にかけて連載されていた、Milchaによる小説が原作。日本では、ピッコマにて小説とコミカライズの翻訳版が配信されている。
 制作は『One Room』『Room Mate』『戦刻ナイトブラッド』の颱風グラフィックス。監督は『おとなの防具屋さん』『夫婦以上、恋人未満。』の山元隼一。両作と違い、本作はエロい描写があんまり無いので随分テイストが違って感じる。シリーズ構成は『彼女、お借りします』『EDENS ZERO』『虫かぶり姫』の広田光毅。キャラクターデザインの橋本治奈は本作が初キャラデザかな。

マイホームヒーロー

 犯人視点の殺人ミステリー
 とあるサラリーマンのおじさんが、ひょんなことから「マイホームの」ヒーローになるお話。1話では、一人暮らしの愛娘とその彼氏にまつわる急転直下な顛末が描かれている。
 実はその彼氏がヤクザとつながりのある人物で、その仇討ちに巻き込まれてしまう、というお話へと発展していく。ミステリー・サスペンス要素が非常に強い作品で、非常にTVドラマとして描きやすい題材だけに、敢えてアニメでやるんだ、という印象を受けた。サラリーマンのおじさんが、家族を守るために巨悪に立ち向かう英雄譚、と言うにはあまりにも血なまぐさい作品。
 主人公のおじさんは一般的なサラリーマン。ミステリー小説なんかが好きな人という設定なので、その知識を活かした搦手により勝利をもぎ取っていく描写こそあれ、あくまで一般人。「アウトサイダーアウトサイダーと戦うお話」ではなく「ただの一般人が、法の及ばない土俵でアウトサイダーと戦うお話」なので、とにかく「ヤクザに怯える主人公の心情」が丁寧に描かれている。たぶん最初から最後までずっと緊張感のある作品に。
 だた、主人公は同時に「家族さえ守れればあとはなんだっていいや」と覚悟を決めた、ある種の「無敵の人」であり、一歩間違えれば即アウトというギリギリの状況をあらゆる非人道的で、非道徳的な行為によって切り抜けていく。ヒーローって言うよりダークヒーローやん。純粋に話の展開が面白いので、ミステリー作品が好きな人向けかもしれない。
 総じて、アウトサイダーをテーマにした作品の中でも特にハードなシナリオとなっており、描写のキツさで言えば、先のアニメ『オッドタクシー』といい勝負してる。今更だけどグロ注意。
 アニメとしては作品の演出も全体的に控えめで、色調も暗い色が多い絵作りが印象的。ドラマチックな演出も少なく、上記の「反社会組織に怯えながらも冷静に立ち向かう主人公の心情」を丁寧に拾い上げた作品になっている。

youtu.be藤川千愛「愛の歌」
絵コンテ・演出:亀井 隆
総作画監督:野口征恒



『週刊ヤングマガジン』にて2017年より連載中の、原作:山川直輝・作画:朝基まさしによる漫画が原作。
 制作は『MUTEKING THE Dancing HERO』『魔法使い黎明期』『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』の手塚プロダクション。監督は『蒼天の拳 -REGENESIS-』にて演出、脚本として参加していた亀井隆。シリーズ構成は『風が強く吹いている』の喜安浩平。キャラクターデザインは『ハクション大魔王2020』『女神のカフェテラス』の野口征恒。音楽は、みんな大好き川井憲次が担当している。

事情を知らない転校生がグイグイくる。

 シャレになってない『僕のとなりに暗黒破壊神がいます。』 
 小学5年生の引っ込み思案な女子が主人公で、ひょんなことから事情を知らない転校生の男子がグイグイくるお話。
 主人公の女の子は大人しい性格の子でいつもクラスから浮いており、クラスメイト達からちょっとした「からかい」や「意地悪」を日常的に受けている描写からお話が始まる。
 そこに偶然に合わせた転校生の男の子は、便乗するわけでもクラスメイトを諫めるわけでもなく、「あだ名が死神!?すっげー!かっけえ!!」と両者(死神と呼ばれている女の子と、彼女にかっこいいニックネームを付けたクラスメイト)を全肯定してしまい、そこからアンジャッシュ的な日常コントをコミカルに描いていく。 
 冒頭からド天然を炸裂している転校生は手を変え品を変え、主人公の女の子を褒めちぎりまくるため、徐々に彼女のガードが下がり、表情が明るくなり、みるみるうちに彼女のソウルジェムが浄化されていく様子が本当に微笑ましい。いい友達に出会えてよかったね。
 彼の屈託なく全てを肯定していくスタイルと、それを受けて徐々に自己を肯定していく彼女のやり取りを見ていると、『けものフレンズ』のサーバルちゃんとかばんちゃんのやり取りを思い出す。今改めてけもフレ1話を見返しても、ほんと良く出来てるなぁって。
 ヒロインこと西村さんを演じるのは小原好美。本作に登場する子どもたちは「THE・子供」なテンション高めのお芝居が多い中、西村さんの声だけ浮いているのがすごく印象的。本作の西村さんの声は「普段人とあまり話さない人特有の、喉になにかつかえているようなノイズが乗った、聞き取りにくい低音」そのもので、小原氏が得意なナチュラル系のお芝居が持つリアルさによって、より「無邪気さを失った子供」感が強調されているよね。
 あと、特に目を引くのがいじめの描写。キャラクターのデザインはかなりデフォルメ調でちょっと児童向けっぽさもあり、BGMも穏やか。全体的に柔らかい雰囲気でありながら、そんな彼らの日常に溶け込むように「いじめ描写」が含まれているため、すごく心がざわざわする。
 その内容も、例えばいじめっ子のリーダーがいて、クラスメイトのうち数人に指示してこっそり主人公に暴力を振るったり、持ち物を盗んだり壊したり、アニメで描きやすい直接被害を伴ういじめ行為、じゃないのがすごくリアル。明確なリーダーがおらず、なんとなく「あいつをからかうのを楽しむ空気」をクラスメイトがみんなで共有していて、ひどいあだ名を影で言い合ってクスクス笑ったり、その子が触れたモノ(掃除用具とか)に対して「アレに触ると呪われて死ぬぞーww」と盛り上がったり。そもそも小学5年生は「いじめ」という言葉を知らないという前提から、彼らの日常にある「楽しいこと」の中に「あの子を死神と揶揄する遊び」がある、という当事者目線での描き方になっているからこそリアリティがあるのかも。
 そのため、物語上は「主人公はいじめを受けている」という事実認定がされることはなく(ちょっとクラスメイトと馴染めていない、くらいの認識)、当然「いじめを指示しているリーダー格」も存在しないし、「いじめを解決するために周りの人間が奔走する」というストーリーにもならないみたい。作者が描きたいのはそこじゃなくて、あくまで「西村さんと、事情を知らない転校生の高田くんの物語」を描きたい、ということなのかな。



 川村拓による漫画が原作。 2018年より作者のTwitterで投稿され、同年より『ガンガンJOKER』にて連載されている。
 制作はスタジオサインポスト。『織田シナモン信長』というアニマルビデオを制作したスタジオで、『キングダム』の共同制作(制作:ぴえろ)でもあったりする。監督は『DYNAMIC CHORD』の影山楙倫。シリーズ構成は『食戟のソーマ』『処刑少女の生きる道』『あやかしトライアングル』『江戸前エルフ』のヤスカワショウゴと、ゲーム『アズールレーン』のアニメーションPVにて絵コンテ・演出を担当している演出家のほしかわたかふみ。キャラクターデザインは『誰ガ為のアルケミスト』『十二大戦』『見える子ちゃん』の嘉手苅睦(かでかる ちかし)。

私の百合はお仕事です!

 ご注文はうさぎですか?劇場
 とある女学園を舞台に、学校へ通う傍らカフェの給仕に勤しむ女学生たちが日々、禁断の愛を繰り広げる群像劇。・・・という設定の飲食店バイトで働く女子高生のお話。1話では、百合とは無縁な人生を送ってきた主人公が、ひょんなことから入園に至るまでの顛末が描かれている。
 カフェで繰り広げられる劇の内容はもう、それこそ『ユリ熊嵐』に負けず劣らずな内容になっており、しかも「消費者が求めている、エンタメとしての百合」なので、どんな作品よりも遥かに王道の百合作品になっている。作中の演出もキラキラエフェクトを始めとしたコテコテの演出も相まって、ニューレトロみたいな趣すらある。
 そんな百合営業を始めた主人公のお仕事アニメが本作のメインストーリーであり、彼女の成長物語が本作の縦軸になるのかな。ただ、表題の通り彼女の人間関係は仕事をきっかけにどんどん女性同士の色恋沙汰に発展していく予感めいたものが2話でコミカルに描かれており、単に劇場型の百合だけでなく「それまで女性に恋愛感情を抱いたことの無かった女の子が云々」というガチの百合まで味わえちゃう作品みたい。1くちで2度度美味しい!
 それにしても、今の時代に敢えてクラシカルな、絵に書いたような百合作品を、しかも現代劇でやろうとするのはすごくハードルが高そうに感じる。あれは一種のファンタジーですよ、という前置きがないとどうしても「こんなやつおらんやろ」という肌感覚が勝ってしまって没入しづらいタイプの人って結構いるんじゃないだろうか。そういう意味でも、本作は「クラシカルな百合」を「現代劇で」描写できているのがすごいよね。そんな方法があったんか。

youtu.be



 『コミック百合姫』にて2017年より連載されている、未幡による漫画が原作。
 制作は『ひぐらしのなく頃に 業』『見える子ちゃん』『異世界迷宮でハーレムを』『恋愛フロップス』のパッショーネと、スタジオリングス。監督は、パッショーネの作品『六花の勇者』『citrus』助監督、『女子高生の無駄づかい』監督のさんぺい聖。シリーズ構成も、『citrus』『ひぐらしのなく頃に 業』にてシリーズ構成を務めていたハヤシナオキ。特に『citrus』は、コミック百合姫にて連載されていた漫画が原作の百合作品で、同じくらいバチバチ系なのでついでにおすすめ。キャラクターデザインは、『ひぐらしのなく頃に 業』にてサブキャラクターデザインを務めた岩崎たいすけ。確かに目元がちょっとひぐらしっぽい気がする。

おとなりに銀河

 久我さんちのアシスタントエイリアン
 ひょんなことから、主人公の元へ押しかけてきた身元不明の箱入りお嬢様をアシスタントとして雇うことになった漫画家のお話。アシスタントとして働きながら、世間の常識やらマンガの知識やら、恋愛やらについて学んでいく様をコミカルに描いていく。ふたりとも基本的に少女漫画オタクなので、ちょっとしたオタクの日常アニメっぽい感じが好き。
 その主人公は漫画家として生計を立てているが、同時にシェアハウスのオーナーでもあるため「1人で自室に籠もり、死にそうな顔で原稿と向き合っている限界漫画家の日常」と違い、シェアハウスに暮らしている人たちと和気あいあいとした日常がメインで描かれている。雰囲気としては『こみっくがーるず』に近いかもしれない。ただ、漫画家の仕事については流石にリアルな描写が多いので、強いて言えばお仕事アニメとしての色が濃い作品。そのあたりがすごくアフタヌーンっぽいと感じた。
 一方、メインヒロインであるアシスタントさんは訳あり箱入りお嬢様なので、なにかにつけてリアクションが独特でかわいい。「これがカップラーメンというのですね!」みたいな。そんなセリフは無いが。主人公とのやり取りに限らず彼の親類縁者とも楽しそうに日常を過ごす様子が描かれており、「みんなで彼女を支えていくホームドラマ」っぽい雰囲気もあってすき。特に2話の、初めて着たジャージ姿をドヤ顔で家族に披露するシーンが非常に可愛かった。

©雨隠ギド講談社/おとなりに銀河製作委員会

 また、彼女は「恋に恋するお嬢様」でもあるので、お話の主軸は「恋とはどんなものかしら?」になっている。最初からもう主人公へのグイグイがすごい。壁ドンをおねだりするとか可愛すぎかよ。
 メインふたりのふわふわしたやり取りに合わせてか、背景を含め全体的な雰囲気は柔和でやさしい色使いや線で構成された作品に。かなり糖度の高い作品になりそうな予感。

youtu.be松本千夏「となりあわせ」
作詞・作曲:松本千夏
編曲:奈須野新平
絵コンテ・演出:山下隆一
作画監督:大滝那佳



 『good!アフタヌーン』にて2020年から連載されていた、雨隠ギドによる漫画が原作。ゆるい日常系だけど全6巻なのね。アニメ放送と同じタイミングで、NHKにてTVドラマが放送された。
 制作は『ピーチボーイリバーサイド』『ドールズフロントライン』『アルスの巨獣』の旭プロダクション。監督は『アイカツ!』シリーズ、『けものフレンズ2』『もののがたり』の木村隆一。シリーズ構成は『けだまのゴンじろー』『進化の実 知らないうちに勝ち組人生』『ぷにるんず』の市川十億衛門。キャラクターデザインは『ドールズフロントライン』『アルスの巨獣』にてサブキャラクターデザインを担当している大滝那佳。

アリス・ギア・アイギス Expansion

 SF美少女動物園
 宇宙からやってくる侵略者と戦う女の子達のお話。あらすじは2話冒頭で描かれているものの、原作ストーリーを最初から描いているわけではなく、大きな戦いが終わった後の小休止パートがアニメ化されているため、テイストは概ね日常アニメ。『アズールレーン』と『アズールレーン びそくぜんしんっ!』みたいな。
 日常系お仕事アニメとして定番の「えーっ!倒産ー!?」みたいな導入から、本来のお仕事を離れてなんかいろいろやるお話に。とりとめのない日常を愉快に描いていく。
 アニメ版主人公?の高幡のどかを演じるのは根本京里。サザンカ役として参加していたアニメ作品『くノ一ツバキの胸の内』でも先輩を慕うやべー後輩役を演じており、両作品のテイストも含めて良く似た作品だなぁと感じた。
 そういえば『ハイスクール・フリート』の原案を務めている鈴木貴昭は、はいふりのような作品を「美少女動物園」って自虐的に呼んでるのを以前目にしたけれど、この呼び方ってあんまり良くないんだっけ。
 割りとコテコテのギャグ演出が多いのは、やっぱり同スタジオの代表作である『邪神ちゃんドロップキック』が原因なのだろうか。
 作画的には邪神ちゃんアニメよりアクションシーンが多く、同スタジオの作画パワーがどんどん高まっていくのを感じる。



 2018年よりピラミッド、コロプラから配信されているスマホゲームが原作。
 制作は『邪神ちゃんドロップキック』『恋と呼ぶには気持ち悪い』のノーマッド。監督は『イジらないで、長瀞さん』『されど罪人は竜と踊る』の花井宏和。シリーズ構成は『とある科学の一方通行』シリーズ構成、『私、能力は平均値でって言ったよね!』『宇崎ちゃんは遊びたい!』『おにぱん!』脚本の杉原研二。キャラクターデザインは『邪神ちゃんドロップキック』シリーズにて作監として参加している岡野力也。キャラクターデザインは初かな。

贄姫と獣の王

 ちゃんとしてる『魔王城でおやすみ
 ひょんなことから生贄の姫と婚約した獣の王のお話。原作が元々読み切りの漫画作品だったこともあり、1話で一応話が完結している。艱難辛苦を乗り越えて徐々に惹かれ合っていく二人を描いたラブストーリーというより、将来を誓いあった二人が2人3脚で障害を乗り越えていく二人を描いたラブストーリー。
 これまでのあらすじ:贄姫は犠牲となったのだ、犠牲の犠牲にな・・・。人間と魔族の対立によって生まれた仕組み自体がすっかり形骸化していて、主人公はその仕組みの被害者として登場するところから話が始まる。
 これ以上犠牲を出さないために停戦協定
→でも権力勾配を誇示するために、最低限の生贄を要求
→人間も、従属を示すために生贄を提供
→人間の犠牲を出さないため、生贄用の人間を育てて提供
→それをイヤイヤながら食べる王様
 という誰も得しない仕組みになっていて、特に被害者の中の被害者である主人公にうっかり獣の王が同情して心変わりするのかな、と思いきや。実際は、システムによって決められた生き方以外を選べない社会の歯車みたいな二人だからこそ通じ合ったんやな、って。
 2話以降、身分や立場や種族を超えて相互理解を深めていく二人のやりとりを通じて、世界観を描いていく。王様が孤立していく様や主人公が魔族から差別的な扱いを受ける様だけでなく、人間側からも大概な扱いを受ける様は、本作の世界がいかに保守的な価値観なのか分かる。特に主人公の「お前生贄として死ぬはずだったんだから、大人しく死んどけよ。なんで生きてんだよ、波風立ててんじゃねえよ」みたいな扱いは非常にリアリティがあって辛かった。これ、最終的に世界平和によるハッピーエンド以外なくない?恋愛のハードルという意味では、同じく半端者の主人公を描いた『薔薇王の葬列』よりよっぽどハードル高そうなんだけど。最後どうなるんや。

youtu.be



 2015年から『花とゆめ』にて連載されていた、友藤結による漫画が原作。
 制作はJ.C.STAFF。監督は『純情ロマンチカ』『美少女戦士セーラームーン(Crystal Season III、Eternal)』『Back Street Girls -ゴクドルズ-』『極主夫道』『クールドジ男子』等でおなじみ今千秋。シリーズ構成は『とある科学の超電磁砲S』『バチカン奇跡調査官』『シュガーアップル・フェアリーテイル』の水上清資。ものっそいシュガーアップル・フェアリーテイルみを感じていたけれど、シリーズ構成も同じ人だったのね。キャラクターデザインは『キルミーベイベー』『ゴールデンタイム』『タブー・タトゥー』の長谷川眞也。

神無き世界のカミサマ活動

 きたない最果てのパラディン
 ひょんなことから神なき世界で神様の布教活動をすることになった少年のお話。宗教二世の主人公が、過激化した新興宗教の犠牲になってしまい、そのまま異世界転生するというエッジの効いたストーリーから始まる異世界転生モノ。その経緯により「宗教はクソである」というスタンスの主人公は、神様という概念のない世界に最初こそ戸惑っていたが、すぐに受け入れていく。が、速攻でその考えを改めるまでの流れが1,2話で描かれている。
 特に、宗教の話に至るまでの過程が結構面白かった。主人公が普通に生活している分には宗教の存在そのものに意識が向くことが一切なかったのに、ふと「死」の概念に触れた時に「死者の弔い方」と「この世界の宗教」がリンクするという描写になっていて、そこから「宗教のある世界(現実世界)」と「宗教のない世界(異世界)」における文化や秩序をそれぞれ比較しながら「宗教とは」を掘り下げていくお話に。そして自分たちの身を守るためには既存の「神様のいない世界」はアカン→そうだ!新しい宗教(秩序)を根付かせよう!という方針転換に至るフットワークの軽い主人公が好き。
 なお、その異世界では「民衆は偶像崇拝をしておらず、世界に秩序をもたらしている最高指導者は存在している」という、なんというか「イスラム教じゃないから、イスラームだから」みたいな感じの世界だったりするので、結局は「土着の宗教vs新興宗教」な宗教戦争に発展しそうなお話になっているのね(主人公もそれを危惧している描写がある)。 
 主人公はチートスキル持ちではないキャラクターと思わせて、実は「宗教の信者を増やすためのノウハウを経験から学んでいる」という稀有な能力持ちだったりする。その手法自体は実際に歴史上で用いられてきた手法なんかもちょくちょく登場するので、今更だけど高校の時に世界史学んどけばよかったなぁ、と思った(理系並感)。
 ・・・といろいろ書いてはいるけれど、本作は概ねギャグアニメだったりする。しかもシュールギャグ。登場人物のギャグ要員の多さとツッコミ不在の恐怖がすごい。公式ラジオ番組でしょっちゅう「コミカルなお芝居ではなくヤバい芝居」と評されているくらいには、出演キャストのほぼ全員が正気を失ったような芝居を繰り広げているので、妙に実力があるキャストばかり集められている理由がわかった気がする。真面目に農業高校の日常を描く作品を見ていたはずが、実は下ネタ満載のギャグアニメだった、みたいな衝撃を受けた。



 『月刊ヒーローズ』にて2019年より連載(現在は『わいるどヒーローズ』に移籍)されている、原作:朱白あおい、作画:半月板損傷による漫画が原作。
 制作はstudio ぱれっと。フウシオスタジオ(2012~2020)の事業を引き継ぐ形で2018年に設立された新しいスタジオ。『世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する』にてSILVER LINK.と共同制作を担当しており、単独での元請けは初かな。
 監督は『魔王学院の不適合者』10話演出、『遊☆戯☆王SEVENS』29話演出、『のんのんびより のんすとっぷ』9話演出の稲葉友紀。監督は初かな。シリーズ構成は、原作の朱白あおい。同氏は『ようこそ実力至上主義の教室へ』『刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火』他いろんなアニメ作品で脚本を担当している人なので、むしろ漫画の原作をやってる方が意外だった。キャラクターデザインは『世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する』にて総作画監督を務めた吉川佳織。
 音響監督は、株式会社オン・ビート代表取締役の野崎圭一。音楽プロデュースが本業の人で、アニメ作品に音響監督として参加するのは本作が初かな。

六道の悪女たち

 魔入りました!六道くん
 いじめられっ子の少年がひょんなことからマガジンのヤンキー漫画の主人公になっちゃうハーレム作品。どういうことなの。
 簡単に言うと「いじめられていた主人公がひょんなことからチート能力を手に入れてヤンキ―相手に無双する」というシナリオのWEB小説と、「気弱なヤンキーが心機一転、地元で成り上がっていく」というヤンキー漫画と、「何故か女の子にモテまくる高校生のドタバタラブコメハーレム」という少年漫画のいいとこ取りみたいなシナリオになっている。
 「ヤンキーの女性に好かれる特殊能力」を得た主人公が、それをきっかけにして成長していく姿を描いた作品だが、主人公の能力は「ヤンキーの女の子に好かれる特殊能力」というより「あ?テメー俺の女に手出してんじゃねえぞコラ」という具合に絡まれる能力として機能しており、少女漫画のヒロインが如く「私のために争わないで―!」みたいなポジションに。登場するヒロインもみんなイケメンで、逆じゃないんだけど逆ハーレムみたいになっている。
 主人公は主人公で、そんなクラスのヤンキーと交流を深めつつ、同時に「彼らを真っ当な人間にするんだ!」という大義を果たそうとする積極的な姿勢を見せていくのだけれど(ノブレス・オブリージュの精神とはちょっと違う感じ)、それでも定期的に
ヒロイン「お前はよく頑張ったよ。後は俺に任せとけ」
主人公「トゥンク…」
ってなるのほんと草。お前がヒーローちゃうんかい!
 彼らを排除するのではなく「仲良くしたい」という方向に話が進んでいくので、ナチュラルに学級崩壊していたクラスが、主人公を中心に和気あいあいと授業を受けているシーンとかこう、なんかいいよね。特に3話は、そんな主人公がヒーローになるお話。ちょっと駆け足気味だけどいい話だった。
 原作の非常に特徴的な絵はアニメでも健在・・・というか、原作より濃くなってない?アニメ版は、キャラの彩色や学校の雰囲気も含めて『魔入りました!入間くん』みたいな、割と子供でも楽しめる感じの学園モノになっている気がする。ハーレム作品にしては珍しくエロハプニングのような性的描写が無いので、実はそういう視聴者層を意識してたりするんだろうか。暴力表現はあるけどな!

youtu.be



 『週刊少年チャンピオン』にて2016年から連載されていた、中村勇志による漫画が原作。
 制作は『ソマリと森の神様』『サクガン』『黒の召喚士』のサテライト。監督は『範馬刃牙』およびそのシリーズに絵コンテとして参加している齊藤啓也。シリーズ構成は『<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-』『蜘蛛ですが、なにか?』『惑星のさみだれ』の百瀬祐一郎。

勇者が死んだ!

 勇者の皮を被った、このすばのクズマさん
 ひょんなことから勇者が死んでしまったお話。代償として、勇者(故)の尻拭いに奔走する勇者(偽)パーティを描いたコメディ作品。
 見た目だけは勇者という文字通りの巻き込まれ体質を得た主人公が、前任の足跡をたどりながらいろんな尻拭いをさせられる様子が描かれている。前任の勇者こそ聖人のような振る舞いをしていた人物だけれど、それでも数々の禍根を残しているんだなぁとしみじみ。
 一応勇者として世界を救う旅なので基本的に真面目な話が多いが、どうしてもギャグを挟まないと死んでしまう主人公たちのせいで常に緩急があって好き。ギャグは全体的にシモネタが多いので、ちょっと昔のライトノベルを読んでる気分になる。
 いろんな登場人物たちと色々なストーリーを繰り広げる旅モノではあるが、それぞれのエピソードには根底の部分として「呪い」というキーワードが共通しているところが結構面白かった。
 元メンバー(魔神):見た目や出生にまつわる差別や迫害
 元メンバー(イケメン):元勇者に対する強い劣等感
 元嫁:勇者の配偶者以外に人生を選べないという諦念
 ある意味、勇者としての使命を果たさなければいけない主人公もまた「呪い」を抱える人物の1人ではあるのだけれど、そこを(ギャグのようなノリで)あっさり乗り越えさせてくれる彼はある意味勇者よりも勇者してるよね。クズだけど。
 OPはオーイシマサヨシより「死んだ!」。インパクトの強いサビから始まる曲ほんとすき。同氏の制作してきた数あるアニソンの中でも、特に「いや、なんの歌だよ」と突っ込みたくなる歌詞で草。
youtu.beオーイシマサヨシ「死んだ!」
作詞・作曲:大石昌良
編曲:大石昌良、RINZO
絵コンテ・編集:STEREOTYPE
映像ディレクション:伊東正志
演出:久城りおん
作画監督:薮本陽輔



 2014年から2020年にかけて『裏サンデー』『マンガワン』にて連載されていた、スバルイチによる漫画が原作。
 制作は『よふかしのうた』『咲う アルスノトリア すんっ!』『うちの師匠はしっぽがない
』『永久少年 Eternal Boys』のライデンフィルム。監督は『真・一騎当千』にて監督を務めた久城りおん。ニーソを履いた女の子の足の作画だけ異様に艷やかだったのは、監督の得意技なのだろうか。
 シリーズ構成は『宇宙戦艦ティラミス』『アズールレーン びそくぜんしんっ!』『コタローは1人暮らし』の佐藤裕。キャラクターデザインは『デュエル・マスターズ』シリーズや『TRIBE NINE』にてキャラクターデザインを務めている薮本陽輔。

女神のカフェテラス

 五等分のおばあちゃん
 ひょんなことから実家の飲食店に帰省した主人公が、お店の従業員の女の子と同棲をすることになったお話。いや、そうはならんやろ。
 田舎にある実家のお店を、親が亡くなったことで引き継ぐお話といえば『うどんの国の金色毛鞠』のように東京から地方に移住した(あるいは東京から出戻った)人目線で田舎を描く作品が多いイメージだけれど、本作の舞台は神奈川県三浦市なのでそういう文脈の作品ではないみたい。あんまり田舎アピールしてないし。
 登場人物は全員高校生ではなく社会人ということもあって(専門学生は社会人とは呼ばないか?)、お話のテーマが「この(おばあちゃんの)飲食店が潰れないよう、協力して営業しよう」なのがちょっと面白い。20代の若い子が経営や接客を頑張りながら成長していく様を描く作品、という意味ではTVドラマっぽい題材かも。最初のお話が「以前経営していた頃にお世話になった業者さん達への挨拶回り」なのも好き。
 主人公とヒロインの共通点が「全員おばあちゃん子」なのがすき。1話では、そんなおばあちゃんと喧嘩別れしたまま死別してしまった主人公の心情描写と、それがきっかけでお店を引き継ぐ決断をするまでのストーリーが描かれている。
 一方のヒロインは、全員血縁関係はない赤の他人だがおばあちゃんとは数年間家族のように暮らしていたため、関係性が既に出来上がっており、逆に主人公が異分子として扱われるところから話が始まる。最初にお店の所有権について口論になったときも、どちらがより孫としてふさわしいか、と言い争う主人公とヒロインたち。みんなおばあちゃん大好きかよ。
 作中では序盤に限らず、事あるごとにおばあちゃんの話が出てくるのが印象的。主人公とうまく馴染めずギクシャクしていたときも「そういえばおばあちゃん、あんなこと言ってたな」という回想を経てすこしだけ大人になった彼らが、仲直りしたり心の距離が縮まったり。全ヒロインのエピソードに必ずおばあちゃんが挟まってくるため、全ヒロインの中でおばあちゃんが最多出演まである。先のアニメ『五等分の花嫁』では、結婚を控えた本ヒロインとの回想の中、という形式で過去(本編)が描かれていたけれど、本作のラストはメインヒロインであるおばあちゃんへの墓参りで、これまでのシーンはすべて墓前での回想でした、みたいな(冠婚葬祭つながり)。
 同じくおばあちゃんがメインヒロインを務めている作品『サマーウォーズ』ばりにおばあちゃんが頑張っている本作は、私みたいなおばあちゃん子からすると色々刺さりまくるので、単なるラブコメとしてというよりは「まだ20歳前後の兄弟たちが、おばあちゃんのために頑張るお話」としてすごく愛おしい作品だった。
 原作が週刊少年マガジンなので、ヒロインがやたら服を脱ぎまくる。同じ座組で制作された週刊少年マガジン原作のラブコメ作品『カノジョも彼女』では、主人公と既成事実を作って他のヒロインと差をつけようと画策した幼馴染が、夜な夜な主人公の寝込みを襲うシーンがあったけど、本作の主人公もまた1話で早速襲われてて草。そのうち誰かとセックスして泥沼化したりするのだろうか。瀬尾公治の作品って主人公とヒロインがセックスする方のやつだよね?あと、やたら全裸~半裸~下着姿の作画が綺麗で、さすが桑原智監督だった。絶対あの監督変態だって。

youtu.be



 『週刊少年マガジン』にて2021年から連載されている、『君のいる町』『風夏』でおなじみ瀬尾公治による漫画が原作。
 制作は『魔法使い黎明期』『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』『マイホームヒーロー』の手塚プロダクション。監督は『五等分の花嫁(1期)』『安達としまむら』『カノジョも彼女』『魔法使い黎明期』の桑原智。シリーズ構成は『五等分の花嫁』『安達としまむら』『カノジョも彼女』で監督とタッグを組んでいる大知慶一郎。週刊少年マガジンのラブコメ作品めっちゃアニメ化するじゃん。キャラクターデザインは『ハクション大魔王2020』『マイホームヒーロー』の野口征恒なので、絵の雰囲気はいつもとちょっと違う感じ。

魔法少女マジカルデストロイヤーズ

 Otaku Lives matter。オタクが風邪引いた時に見る夢。 
 政府からの弾圧に対し、反旗を翻したオタクレジスタンスたちのお話。魔法少女と力を合わせて戦う青年が主人公で、彼らの率いるレジスタンスによる戦闘描写と、オタクとしてのイデオロギーにフォーカスを当てた描写が印象的な作品。
 本作はかなり中途半端なところからお話が始まる。中盤から後半にかけて訪れる展開の定番である、
・戦いの長期化によって疲弊する組織
→方向性の違いから空中分解するパーティ
→挫折してしまう主人公
→それでも主人公を信じて戦うヒロイン
→その背中を見せつけられてふたたび立ち上がる主人公
1クール作品だったら大体8~10話あたりで描かれるような展開だが、本作の1話がちょうどこのあたりから始まるためいきなりクライマックスに。どんなアニメであれ、8話あたりからいきなり見始めても「つまり・・・どういうこと?」ってなると思うので、本作には「描かれなかった1~7話があったんだなー」という認識で触れる必要がある。ちなみに前日譚は一応存在しており、原案のJUN INAGAWA氏による個展の中でコンセプトアート等を展示していたらしい。ちょっと見てみたいかも。
 似たテーマの作品としては『逆転世界ノ電池少女』が思い浮かぶ。逆転世界ノ電池少女は、同じく政府の弾圧を受けていたオタク達が結束して戦うSF特撮系ロボットアクション作品で、すごくコメディとシリアスのバランスがいい感じの作品なのでついでにおすすめ。
 対する本作はシリアスともコメディとも違う、独特の中毒性がある映像作品という印象が非常に強い。というか見る麻薬(というか登場するヒロインがヤク中)みたいなアニメになっている。ちょっと『さらざんまい』に通じる異空間っぽさを感じた。特に戦闘シーンは作画熱量が非常に高く、「ヒーローたちが戦っている姿」が本作でいちばん描きたいポイントだったんだな、って。あと、ヒーローやヒロインのダーティな感じとか、下ネタを自重しない感じとか、そのヒーローらしくない感じが『ワンパンマン(1期の方)』『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』っぽいと思った。さすがにパンストほどド下ネタのオンパレードではないので「海外のアニメっぽい」と言う方が適切だろうか。
 あと、全体を通じて「オタクカルチャー」の描き方が少し新鮮だった。オタクを描いた作品におけるステレオタイプのオタクって「変な格好して、変な言動して、変なグッズを所持してる変な男性」という否定的な文脈での描写や、逆に肯定的な文脈でも「変な格好して、変な言動してるけど、明るくて面白い男性」みたいな描写(逆転世界ノ電池少女におけるバルザック 山田がこんな感じの描写)が多い。一方の本作は、美少女フィギュアが好き、車が好き、鉄道が好き、メガネ、チェックのシャツイン、ウェストポーチ、バンダナみたいなステレオタイプの格好等、色々なテンプレを纏ったオタクたちが、決して自身を否定せず逆にアイデンティティとしてそれらを主張する、という描写になっている。政府から弾圧を受けていない一般人達から、動物園で飼育されている希少な動物みたいな扱いを受けるという直接的な差別を描いたシーンでさえ、自分たちの格好や趣味に問題があるんじゃないかと思い悩む描写すらなく「うっせークソが!」と反発する姿が非常にロックでかっこよかった。
 本作の原案を務めているJUN INAGAWAは2019年に公開されたインタビュー記事の中で、彼が日本とアメリカそれぞれで暮らしていたときの実体験に基づいた価値観として、アメリカにおけるストリートカルチャーと日本のオタクカルチャーの親和性について語っていたのが印象的。そういう視点から本作を見返すと、本作は「社会から犯罪者予備軍みたいな扱いを受けてきたオタクカルチャーの人間が、自身のアイデンティティを守るためにアナーキストとして戦うお話」という作品なので、ある意味アメリカにおけるストリートカルチャーの文脈になぞらえて描いている部分もあるのかな、って。だからこそ、「なんでそんなダボダボの服着てるの?もっとちゃんとした服着ればいいのにw職質されちゃうよw」「うるせえ、これはこういうファッションなんだよ」という衝突を経て広く受け入れられていったストリートファッションのように[要出典]、彼らの纏う衣装や趣味、趣向を「オタクにとってのストリートカルチャー」として肯定的に描いている本作は、本当の意味で「オタクだけどかっこいい」ではなく「オタクはかっこいい」を描こうとする作品なのかもしれない。
www.wwdjapan.com

youtu.be愛美「MAGICAL DESTROYER」
作詞:JUN INAGAWA、JUBEE
作曲・編曲:TAKESHI UEDA
絵コンテ・演出・作画監督MARZA ANIMATION PLANET、沓名健一



 イラストレーターのJUN INAGAWAが原案を務めるオリジナルアニメ。
 制作は『五等分の花嫁∬』『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』『プリマドール』のバイブリーアニメーション。監督は『キラッとプリ☆チャン』『群れなせ!シートン学園』『トニカクカワイイ』『新米錬金術師の店舗経営』の博史池畠。副監督は『キラッとプリ☆チャン』副監督、『新米錬金術師の店舗経営』LO監修の川瀬まさお。シリーズ構成は『ゴールデンカムイ』『真・中華一番!』『キングダム』『SPY×FAMILY』等で脚本を担当している谷村大四郎。キャラクターデザインは沢友貴。本作が初キャラデザかな。

Opus.COLORs

 新しいスタミュ
 とある商業絵師育成学校に在学する若手クリエイターたちのお話。学校に在籍しながら、日々ポートフォリオ制作に邁進する学生たちの日々を描く作品。
 単純に絵描きを育てる学校、というわけではなく、プロデューサーとクリエイターを抱き合わせで育成しているという特殊な設定になっている。ジブリで言うところの宮崎駿鈴木敏夫を同時に育成している学校、みたいな感じ。
 それぞれの学生寮はめっちゃ仲が悪く常にいがみ合っているのだが、衝突した際にお互いの言い分が妙にリアル。「具体的なテーマをよこせ」「うるせえさっさとイメージボード上げろ」「好きにさせろ」「いいから言ったとおりに絵を描け」みたいな応酬は、なんだか創作現場における社会の縮図みたい。それぞれが力を合わせて創作に向かっていく成長物語という意味では、ある意味「映像研には手を出すな!」と同じジャンルの作品ということになるのだろうか。
 そして、そこはかとなく漂うBLの香り。登場人物は全員男性で、学校も男子校。別に恋愛ドラマではないのだが、主人公と主人公の幼馴染の関係性が、なんというか。妙に湿度の高い主人公と、妙にドライな元カレ幼馴染。よりを戻そうと躍起になる主人公の言動からにじみ出る、めんどくさい彼女感よ。
 ストーリー展開的には『少女歌劇 レヴュースタァライト』における愛城華恋と神楽ひかりに似ている二人。スタァライトTVシリーズでは割りと湿度の高かった二人だけれど、劇場版のラストでカラッとした関係性に変化していたのが印象的。翻って本作の主人公CPは最終的にどんな感じになるのだろうか。
 ちなみに、本作の冒頭では主人公が幼少期に体験した憧憬として「クリエイターとプロデューサーとして最高のパフォーマンスをするご両親の姿」が描かれていており、ここで主人公の創作の原点が示されているのだが、もうこの時点で「クリエイタとプロデューサーは夫婦」という意味が付与されているため、本作のBL感は狙ってやってるみたい(作中でも主人公CPは夫婦いじりされてるし)。
 他にもいくつかのCPが登場するが、最初に「この子はこの子とくっつきます!」と明示されているので、あんまりドロドロした恋愛群像劇にはならなさそう。あくまで青春ドラマだからね!
 スタミュのスタッフによる新作でありながら、本作は歌やダンスによるアイドルライブの要素を前面に押し出していないのが逆に印象的。当然、ライブシーンも無い(歌って踊らない訳では無い)。登場人物がクリエイター(出役じゃない人たち)のお話、というのもあるのかもしれない。基本的には絵を書いて納品する人たちだもんね。
 また、学校に取り巻きの女子がいたり、自己投影できる「私ちゃん」も登場しないため、そういったアイドル作品と比べ、なんというか「禁断の園」感が。百合作品でしか味わえないと思っていたアレがこんなところに。
 ゲームアプリ等のメディアミックス展開もしていないため、ホント不思議な作品。



 メディアミックス作品『スタミュ』の原案でおなじみ、ひなた凛が原案を務めるオリジナル作品。
 制作は『スタミュ』『ゆるキャン△』のC-Station。監督の多田俊介、シリーズ構成のハラダサヤカ、キャラクターデザインの渡邉亜彩美など主要スタッフが『スタミュ』から続投しており、実質スタミュの続編みたいになっている。

絆のアリル

 第2,第3のキズナアイ育成プロジェクト
 「ここなら何でもできるし、何にでもなれる」バーチャルアーティストを目指す少女のお話。SF近未来が舞台で、バーチャルアーティスト養成学校に通う少年少女たちの日常を描いていく。
 「バーチャルアーティスト」という呼称はバーチャルユーチューバーのキズナアイが元ネタで、作中におけるキズナアイは「AIだけどアイドルの頂点に君臨する人物で、主人公の憧れの的」みたいな位置づけ。『IDOLY PRIDE』の長瀬 麻奈や『SELECTION PROJECT』における天沢 灯みたいなポジションのキャラクターとなっている。
 バーチャルアーティスト志望の主人公も、そんな彼女に憧れて歌やダンス等のパフォーマンスを練習しながら、同じ夢を目指す友人たちと繋がっていくお話になっているため、全体的に女性アイドル作品としての趣向が強い。
 それにしても、天真爛漫な主人公の一挙一動や2話冒頭の自己紹介+あらすじセリフといい、そこはかとなく女児向けアニメ感がある。少女漫画というよりニチアサっぽい感じ。でも深夜アニメなんだよね。主人公が16歳ではなく12~14歳だったら完全にニチアサだった。マスコットキャラも出てくるし。
 意外なことに、本作はそういう層向けのアーケードゲームの稼働だったり、ゲームアプリの稼働といったメディアミックス企画は放送時点で特に何もないんだよね。2クール終わったタイミングで重大発表的な?
 そんな主人公を演じるのは日原あゆみ。SMAのオーディションを経てデビューした新人さんで、本作が初出演なんだって。『おにぱん!』『東京ミュウミュウ にゅ~』よろしく、新人さんが主演のアニメからしか得られない栄養がある。そういうところも含めてニチアサっぽいよね。
 ちょっと面白いのは、彼女たちが目指しているバーチャルアーティストが、ちゃんと現実のバーチャルユーチューバーに即した設定になっているところ。2話では教師がアバターの権利について説明するシーンや、アバターを制作する技術者のお話がちょろっと出てきたりするのが印象的。本作を通じてリアル世界のバーチャルユーチューバーについての多角的な知識が得られる作品を目指しているのかな。
 また、毎話ちゃんとライブシーンがある。この手の作品(広義のアイドル作品)での3DCGライブシーンは基本的にユニットダンスが中心だけれど、本作はソロ歌唱を中心に取り扱っているところが特殊だよね。やっぱりキズナアイリスペクトなのかな。



 キズナアイのアニメ化プロジェクトとして制作されたオリジナルアニメ。
 制作はWIT STUDIO×シグナル・エムディシグナルエムディってIGの子会社なので、この組み合わせはちょっと意外だった。監督は『妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』『妖怪ウォッチ シャドウサイド 鬼王の復活』『トミカ絆合体 アースグランナー』監督補佐の駒屋健一郎。シリーズ構成はいつもの赤尾でこ。キャラクターデザインは『ドラゴン、家を買う』キャラクターデザインの朝香栞と、同作にて設定制作、絵コンテとして参加していた森田二惟奈の共同。主要スタッフはシグナル・エムディの人が多いのね。

転生貴族の異世界冒険録 〜自重を知らない神々の使徒

 爆速で進むハイテンションラブコメ
 ひょんなことから転生して貴族になった少年が、自重を知らない神々の使徒になって異世界を冒険するお話。
 生まれながらにチート能力を授かった転生者の主人公が、幼いうちから正義のヒーローとして八面六の大活躍をする様が超スピードで描かれている。話数を跨ぐと数年単位で時間が飛ぶため、毎回「あれ、1話飛ばしたか?」ってなるレベルの爆速展開で草。ちなみに1話冒頭で3歳だった主人公(しかも貴族の3男なので身分はそこまで高くないという設定)だが、3話時点で王女様と婚約するところまで話が進んでいく。展開はっや。
 話の展開としては、異世界転生モノのテンプレを踏まえた比較的スタンダードなストーリーに。最近の作品でいうとEMTスクエアードの作品『くまクマ熊ベアー』が近いかもしれない。ただ、冒険に出かけたい欲求を抑えられない本作の主人公は「外へ外へ」という物語になっていく一方で、くまクマ熊ベアーは「旅先で出会った(生活に困っている)子どもたちに居場所を作ってあげるお話」がメインなので、逆に「内へ内へ」っていう作品のように感じる。
 本作の登場人物はみんなテンションが異常に高い。話速も早く展開も早いため、全員でまくしたてるようなやり取りが非常に印象的。BGMも終始ハイテンションで、かつキャラクターのアニメーションも独特のスピード感とコミカルさがある。こってりした演出が多い作品だけど、全体としては「懐かしい感じのノリで繰り広げるラブコメハーレム作品」に綺麗にまとまっているよね。
 あと登場人物で言うと、この手の作品はよく「優れた才能で脚光を浴びる主人公(光)」と「その主人公にこっそり嫉妬する敵役(影)」という対比構造がよく使われていて、それこそ先のアニメ『転生王女と天才令嬢の魔法革命』はこの対比構造を中心とした非常に濃厚なシナリオだったけれど、一方の本作はそういった「影」のあるキャラクターが全然出てこないのが印象的。初回の登場でなんとか爪痕を残そうとするギャガーみたいな人ばかりで、表の顔と裏の顔~みたいな二面性とかそういうの一切無いよね。そういう意味ではポテチとかポップコーン並みに食べやすいスナックみたいな作品かも。



 2017年より「小説家になろう」にて連載されている、夜州による小説が原作。2019年より書籍版がサーガフォレストから刊行中(イラスト:藻)。
 制作は『シュート!Goal to the Future』のEMTスクエアード/マジックバス。マジックバスは所謂僧侶枠アニメを制作しているところ。監督は『シュート!Goal to the Future』の中村憲由。同氏は『カードファイト!! ヴァンガード』シリーズに絵コンテ、演出として参加していた人で、シリーズ構成の高橋ナツコ、シリーズ構成”補”の成田順、大久保昌弘もまた『カードファイト!! ヴァンガード』シリーズに参加している人たちだったりする。キャラクターデザインは『くまクマ熊ベアー』『勇者、辞めます』『シュート! Goal to the Future』にてサブキャラクターデザインを担当していた徳川恵梨。

異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~

 通常攻撃が全体攻撃で2回攻撃のお姉さん。そのままだと表題が覚えにくいが、「いせかいわんたんきるねえさん」と音読すると覚えやすい。
 ひょんなことから姉同伴の異世界生活を始めた少年のお話。
 主人公が近親者(妹を除く)とともに異世界ファンタジー冒険活劇に赴くアニメ作品って意外と少なくて、最近の作品だと『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』くらいしか思い浮かばない。おかすきの方は「関係が上手く行っていない親子の異世界ホームドラマ」というテイストの作品だったけれど、本作はあんまりホームドラマっぽさはなく、かなりコメディチックな作品になっている。
 メインヒロインは主人公のみ?だが、ヒーローキャラは実姉に限らずどんどん増えていくみたい。おまけにお姉さん属性付きなので、おねショタハーレムだこれ。主人公はショタじゃない気がするけれど、長命な亜人と比べれば実質ショタやろ。すげー庇護欲をそそられるキャラクターだし。
 セクハラが尋常じゃなくて草。身内同士のセクハラ描写といえば、主人公♂が(庇護対象である)妹に過度なセクハラをする作品は(物語シリーズを除いて)ほぼ無いけれど、本作は立場が逆かつ相思相愛だからギリギリ成立してる感あるよね。毎回主人公が物語シリーズ八九寺真宵みたいな目に遭っているけれど、身内だからヨシ!



 2020年から『サンデーうぇぶり』にて連載されている、原作:このえ、作画:田口ケンジによる漫画が原作。
 制作は月虹(ゲッコウ)。2017年に設立された比較的若いスタジオで、TVシリーズの元請けは初かな。公式サイトの事業内容見ると、わりと何でも屋さんみたいな会社だった。
 監督は『EDENS ZERO』『オリエント』『恋は世界征服のあとで』『古見さんは、コミュ症です。』にて絵コンテ、演出として参加している髙木啓明。ちなみに同氏は『ド級編隊エグゼロス』の7話にて、アイキャッチ・絵コンテ・演出・作監を頑張っていた人なので、観るなら7話がおすすめ(ほんのちょっとエロ注意)。

異世界召喚は二度目です

 ステータス継承でRPGの2週目攻略
 ひょんなことから、二度も異世界に召喚されるお話。異世界転生モノに限らず、同じ世界に2度訪れて再び世界を救うお話ってなんとなく勇者より魔王が主人公のイメージがあって、それこそ『魔王学院の不適合者〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜』のように「魔王が倒されて平和になった世界を、市民Aの立場から俯瞰しようとする」という、ストーリーにちょっとしたひねりのある作品がいくつか思い浮かぶ。
 その点、本作のストーリーは非常に明快で「勇者のお陰で一度平和になった世界がまた危危機に瀕しているので、もう一回勇者に救ってもらう」というお話になっている。
 実は魔王学院の不適合者とストーリーの大筋(主人公が世界を救うために、かつての仲間と一緒に奔走するというストーリー)は大きく違いはないのだけれど、あちらは「魔王が眠っていた2000年の間に何が起きていたのか紐解きつつ、黒幕の正体に迫っていくミステリー」という要素が強い作品であるのに対し、本作はもっと「2週目攻略特有のスピード感」が印象的な作品になっている。
 1週目はちゃんと正攻法で魔王討伐まで攻略していたらしい主人公だが、2週目は
・人間と魔族がまた戦争を始めようとしてる
・魔王を止めよう
・魔王は知り合いだからちょっと顔出してくるわ
という爆速攻略に。おまけに、道中の中ボスみたいな連中も全員攻略済のため「待ってたぜ相棒!」くらいのノリで話が進んでいく。これはRPGゲームよりも「劇場版1作目で大団円を迎えた作品の2作目で、1作目で敵だったキャラが2作目では仲間になっており、一緒に新たな脅威と共闘するヒーロー作品」のほうが雰囲気として近いかもしれない。こういった作品は最初から関係性が出来上がってる分、見ていて楽だよね。あと「1作目で仲間になったはずの魔王が、悪いやつに操られて敵対しているのを主人公が救おうとする」という定番イベントもちゃんとあって好き。
 主要な登場人物はほぼ可愛い女の子なので、本作のジャンルは異世界ハーレムモノということになるのだろうか。主人公は1週目で各ヒロインを攻略済(意味深)ということもあり、5年ぶりに会ったヒロインたちに「ごめんってば!お前のことを忘れてたわけじゃないから!」と言い訳をしている様は、冒険活劇というより「現地妻に謝罪行脚して回るハーレム主人公」といった趣がある。本妻はどの子なんだろ。あと、どのヒロインも妙にエロい。



 「小説家になろう」にて連載されていた、岸本和葉による小説が原作。書籍版はモンスター文庫双葉社)より2015年から2017年まで刊行(イラスト:40原)。
 制作は『ジビエート』のスタジオエル。監督は『ヒーラー・ガール』『かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』『メイドインアビス 烈日の黄金郷』に演出として参加していた中西基樹。監督を務めるのは初めてかな。
 シリーズ構成は、成人向けゲームブランド「スミレ」の代表で、シナリオライターの雪仁。そこはかとなくエロゲっぽい雰囲気があるのはこの人の力なのだろうか。キャラクターデザインは『デート・ア・ライブIV』総作画監督で、『ジビエート』メインアニメーターの國井実可子。

異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~

 全世界イケメン無双ファンタジー
 ひょんなことから異世界でチート能力を手にした主人公が、現実世界をも無双するお話。異世界転移モノの中でも現実と行き来するタイプの作品で「現実世界では虐げられていたけれど、このチート能力で今度こそ俺はちゃんとした人生を生きるんだ!」というストーリーと併せて「俺を虐げてきた連中に、目にもの見せてやる!」というストーリーも展開されていく。
 表題から滲み出す復讐劇っぽさとは裏腹に、本作の主人公は虫も殺せないくらい優しい男性という設定。単なる復讐劇と違って「俺の不幸を喜んでいた連中に、幸せに生きている姿を見せつける」ことで復讐を成す、という平和的復讐劇になっている。ベースは重い話でありながら、内容は比較的ライトなノベルのラブコメ主人公だよね。それで主人公を演じているのが松岡禎丞なのか。ちなみにチートスキルの最たる能力が「容姿がイケメンになる」というド直球なスキルになっており、「イケメン無双ファンタジー」みたいな異世界モノを見ている気分になる。似たような能力を駆使する作品としては『異世界美少女受肉おじさんと』があるけれど、だいたいあんな感じ。本作の主人公はあっちの世界でもこっちの世界でもヒロインを落としまくっているけれど、結局誰とくっつくんだろうか。
 ゲーム風UIの表示について。同スタジオの異世界転生系作品『蜘蛛ですが、なにか?』でも同様に、主人公がゲームのようなUIを操作しながら冒険をする様子が三度描かれているのだが、その簡素なUIの表示が凄く見やすくて好きだったんだよね。その描写が本作でもいい感じに引き継がれていて嬉しかった。
 あと、同スタジオ作品『蜘蛛ですが、何か?』では3DCGアクションと作画アクションを行ったり来たりしていたが、本作はずっと作画アクション。物語上アクションシーンの尺こそ短いが、板垣監督特有のクセ強アクション作画が本作でも健在なので、毎話楽しみにしている。



 「カクヨム」にて2017年3月25日より連載されている、美紅による日本のライトノベル作品。書籍版が2018年からファンタジア文庫より刊行されている(イラスト:桑島黎音)。
 制作は『Wake Up, Girls! 新章』『コップクラフト』『蜘蛛ですが、なにか?』のミルパンセ。総監督・シリーズ構成は、同スタジオ作品でおなじみ板垣伸
 監督は『コップクラフト』副監督、また『蜘蛛ですが、なにか?』にて全話数のうち半分の演出を担当した田辺慎吾。キャラクターデザインは『コップクラフト』『蜘蛛ですが、なにか?』の木村博美。

THE MARGINAL SERVICE

 日本の『メン・イン・ブラック
 ひょんなことからTHE MARGINAL SERVICEに入社することとなった元刑事のお話。素行不良の警察官が窓際部署に飛ばされてしまい・・・というシチュは刑事モノのテンプレではあるけれど、本作は、映画『メン・イン・ブラック』で言うところの、「異邦人たちの取り締まりを行う組織」に入社するというSF作品になっている。
 MIBでは、主人公たちは「勝手に地球にやって来て、その地球人に紛れて暮らしているモンスターたちを、地球人に知られることなく影から管理する組織」みたいな立ち位置だったけれど、本作では活動内容こそ似ているが、このモンスターの立ち位置が若干違う。本作に登場するモンスターはいわゆる神話生物で、土着信仰に基づくバックグラウンドを持っているという点では「異邦人」ではないんだよね。4話では、土着信仰の神話生物が、自身のルーツである土地を取り戻すためテロ行為を繰り返すアクティビストとして描かれており、どっちかというと人間側が侵略者なんじゃね?という雰囲気を醸し出している。
 ややこしいのは、その元々日本に住んでいたモンスターたちの他にも、海外にルーツを持つ神話生物が日本に移民としてやって来るパターンもあるし、おまけに人間の移民にまつわる諸問題もガッツリ描かれているため(現在の日本より、更に移民の受け入れを拡大した世界線になっている)、主人公たちが「民族紛争を解決するために活動している団体」みたいになっている。何気に国際色豊かなメンツなのも印象的で、弱者救済のために奔走するという意味でも、かなりアメリカンなヒーローだよね。上記の4話も、非常にアメリカっぽいテーマ設定のように感じる。
 というか、日本じゃなくてもはやアメリカの都市を舞台にしたドラマだよね。敢えてレンガ造りの高架下をチョイスしてる所とか、スラム街の雰囲気とか、やたら人種が多種多様なところとか。主人公の自宅の雰囲気もすごくそれっぽい。あとビールが全部海外ブランドなのも細かい。わざと海外ドラマを日本でやろうとしている感が本作のキモなのかな。
 ちょっと面白いのは、本作で描かれている日本が全くのファンタジーというわけではなく「もしかしたら、こういう日本の未来もありえるかもしれない」という予感があるところ。実際はもっと中国の色が強くなるんじゃないか、とは思うけれど、そういう意味では若干のリアリティを感じるSF作品だなぁ、って。
 作風としては、かなり洋画のオマージュを取り入れた内容になっている。3~40代に刺さりそうな作品が中心なので、それこそMIBとか好きな人は「あ、このシーンあの映画のあれか~」ってなると思う。全体的なノリも含め、ややコメディよりの洋画チックな作品。でも当時の作品群と比べると、下ネタとブラックジョークが少ない気がする。天狗のキャラが登場してもシモネタいじりしてなかったし。



 オリジナルアニメ。制作は『天体のメソッド』『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』『ヒーラー・ガール』のStudio 3Hz。なにげにオリジナルアニメ作る率高いスタジオだよね。監督は『天体のメソッド』『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』『慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる〜』の迫井政行。シリーズ構成は『慎重勇者 ~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』『異世界おじさん』『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』『便利屋斎藤さん、異世界に行く』の猪原健太。異世界転生モノか?
 キャラクターデザインは同じく『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』キャラクターデザインの小堺能夫。実質GGO。

最後に

 新作全部1話視聴はおすすめしない。実はこのブログ、1エントリを書くのに3ヶ月くらい使っているのだが、そのほとんどがアニメの視聴時間だったりする。アニメの本数が少ないうちはまだなんとかなっていたのに、どんどん視聴本数が増えていってしまって、今は周回遅れ状態に。全作品をまんべんなく見ようとするのは「新作をみんなと一緒に楽しむ行為そのもの」が好きだから、っていうのもあると思うけれど、あまりそこにこだわり過ぎてしまうと旧作に手を伸ばす時間がなくなってしまうし、加えて下記のように
・本数が多くて観きれない
→次のクールが始まっても、前クールのアニメを見ているせいで出遅れる
→前のクールよりさらに本数が多くて追いきれない
→じゃあいいや
という具合に、本来の「アニメ自体を楽しむ」という目的を達成できなくなってしまうのが怖い。もちろん沢山の作品を知ること自体はとても楽しいけれど、一つひとつの作品をしっかり楽しむにはあまりにも期間に対する作品数が多すぎるという現状は如何ともし難く、おかげでまだ夏アニメを観られていない。チクショー!
 また、一所懸命に追いかけている人の中には「観たいアニメは特に無いけど、最低限みんなが面白いと言ってる作品だけは見逃したくない(そのせいで沢山の作品に手を伸ばす羽目になっている)」という人が多かれ少なかれいると思うけれど、これだけ視聴者の母数が増えた現在において、その多種多様なアニメファンが口を揃えて「この作品が一番面白い」と言えるような作品はほぼ無いのでは(作品の質がどうこう、という問題ではなく)。ある意味「自分はあの作品を観ていないけど、きっと誰かにとっては神アニメなのだろう」という割り切りが重要な時代なのかもしれない。吾唯足知の精神は大事だよね、という意味でも、やはり新作全部1話視聴はおすすめしない。
 そして、製作者様へ感謝をば。今期もまたとても面白い作品を作っていただきありがとうございます。クソ暑い日が続きますが、お体に気をつけつつ制作頑張ってください。陰ながら応援しています。ではでは。